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Case Study実績・お客様事例

東芝 電力システム社 様(CDAJ news vol.62)

鉄道車両用モータ開発に「STAR-CD/STAR-CCM+」をご活用

株式会社 東芝 電力システム社 電力・社会システム技術開発センター 様
CDAJ news vol.62お客様紹介コーナーより抜粋
発行日 2010年12月

解析種別:熱流体解析
課題等:低騒音

省略
それでは、具体的に今回のモータの開発におけるSTAR-CDの活用状況についてご紹介ください。
冷却構造と低騒音化に取り組んだ内容をご紹介します。モータ内部を密閉構造としつつ、冷却効率を最大限にあげるため、機内外を一体冷却する新方式の冷却ファン構造を開発しました。こちらの構造については、図1をご覧ください。
図1 全閉外扇形電動機概観写真と、上部半分の断面図
図1 全閉外扇形電動機概観写真と、上部半分の断面図
こちらは、モータの3次元解析モデルです。固体部の熱伝導と空気との連成解析を行います。境界条件は、外気温度20℃、回転部周りの空気に回転条件2,075rpm、損失として回転子にバー銅損と固定子に鉄損とコイル銅損、軸受に機械損の発熱を設定し、定常解析を実施しました。
図2 3次元解析モデル
図2 3次元解析モデル
このモータ内は、ダブル・ブレードファン、ミニファンと冷却ダクトでの熱交換によって冷却されています。ダブル・ブレードファンは、形状が複雑なためCFDで熱伝達率を計算しました。ファン外周部の羽のない箇所では、熱伝達率は約130(W/㎡ K)と、回転円盤の実験式で計算した値100(W/㎡ K)よりも高い。ダブル・ブレードファンは、外扇が設けられているため、冷却風が半径方向に流出し、ファン表面での流速が単純な、回転円盤よりも増加します。これは、従来のベアリングブラケットを静止壁とした値から10倍も上回ることが確認できました。
従来方式にファンでは、放熱効果が低く温度が上昇し規定の温度を超過していましたが、ダブル・ブレードファンなら、十分な冷却性能をもった装置の一つということが確認できました。
図3 ダブル・ブレードファン熱伝達率の分布
図3 ダブル・ブレードファン熱伝達率の分布
続いて、モータ内のCFDについてご説明します。モータ内の熱は、内気→内扇→内気→ファンへの熱伝導→外扇という経路で放熱されます。そこで、ダブル・ブレードファンと同一のモデルで、従来形ファンの経路での熱伝達を模擬してみました。ファンの羽がない外周部付近での熱伝達率は130(W/㎡ K)程度と、実験と比較的よく一致していました。さらに、ファンの羽根によって強制的に風を回転させることで、熱伝達率が向上し150~200(W/㎡ K)にまで達していることがわかり、ファンの羽根はヒートシンクの役割だけでなく、熱伝達率の向上にも深く関係していることがわかりました。
図4 モータ固体部の温度分布
図4 モータ固体部の温度分布
産業用モータにおいては、熱と騒音はトレードオフの関係にありますので、続いては、低騒音化について取り組む必要がありました。外部ファンの騒音の分析から、[回転数]×[羽根枚数(13枚)]の周波数成分が大きいことがわかっていました。そこで、等間隔で取り付けていた13枚の羽根を、不等間隔で取り付け、羽根の1回転で生じる圧力変動を非周期的なものにすることを考え付きました。しかし、単純な不等配ピッチでは、回転バランスが悪化するので、羽根の取り付け角度と回転バランス量の関係を定式化して取り付け角度の検討、羽根形状の最適化、通風路の整流にも取り組みました。その結果、広い周波数にわたり、全体的に騒音を低減することに成功しました。
図5 不等配ピッチ羽根の騒音低減効果
図5 不等配ピッチ羽根の騒音低減効果
もう少し、音の問題についてご説明します。外扇ファンは、羽根の回転に伴って「回転風切り音」と呼ばれる周期的な騒音を発します。ファンが回転すると、羽根の通過に伴って外部の空気が入口を通り、ファンカバー内部に流入します。このとき空気は、入口に入り込む際に収縮し、ファンカバー内部に流入するときには拡張します。この収縮と拡張は、羽根が通過する時間の差だけずれて繰り返されるため、回転風切り音が発生すると考えられています。同様にファンカバー内部から、ファンカバーの出口を介して外部に排出するときにも、空気の収縮と拡張が繰り返され、音の発生要因となっています。これらの現象を明らかにし、等配・不等配分ピッチそれぞれのファンの回転風切り音や風量を計算しました。そこで、先ほど述べたように、騒音低減には成功したわけです。
しかし、そのファンが、冷却能力を損なっていないかどうか、これが大きな問題でした。不等配ピッチを採用したせいで、風量が10%程度低下していることがわかっていたからです。これについては、試験を実施して、いずれも温度上昇限度に対して、十分な余裕を持っており、この新方式の機内外一体の冷却ファンの能力が十分であることが確認できたわけです。
熱と騒音というトレードオフ問題を解決されたというわけですね!?
はい、そうです。この開発において、STAR-CDは重要な役割を果たしてくれました。温度低減への熱伝導の算出にあたっては、流体解析の価値あるツールとして活躍してくれましたし、騒音低減への気流音と音源の解明にも貢献してくれました。全体として、試作・実験回数を削減でき、開発スピードが12ヶ月から3ヶ月へと劇的に加速することができました。
ありがとうございます! お役にたてたようで、本当に嬉しいです!
実はこれは、世界初の全密閉モータで、いくつか賞(注)いただきました。その次には、環境問題を強く意識した永久磁石を入れた鉄道車両用モータも開発しました。これも世界初のことです。この永久磁石を採用したほうは、消費電力量を著しく低減させることができました。お客様にとっては電気代が安くなるという大きなメリットがありますが、われわれも、効率を97%に改善できたので、発熱の問題が減り冷却がずいぶんと楽になりました。
世界初の技術が2つも! すばらしいです。先ほどご説明いただいたように、鉄道車両は使用年数が長いので、消費電力量を抑えたモータというのは、環境面にも十分配慮した、高い製品力を持っているように思います。これは、実際の電車に使われているのでしょうか?
地下鉄用などで実際に使われ始めました。
省略

(注)受賞歴

  • 2006年:第54回電気科学技術奨励賞受賞
    電気科学技術奨励賞「人と環境に優しい電車用全密閉形モータの開発と実用化」
  • 2008年:平成20年度(第57回)電機工業技術功績者
    優秀賞「産業用モータファンの低騒音化の開発」
  • 2009年:平成21年度関東地方発明表彰
    発明奨励賞「モータ用ファンの低騒音」

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