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Case Study実績・お客様事例

日本設計 様(IDAJ news vol.115)

建築設計の構造最適化にmodeFRONTIER®をご活用

株式会社日本設計 構造設計群 様
IDAJnews vol.115お客様紹介コーナーより抜粋
発行日2024年3月


課題等:災害発生時の安全性、建物性能、耐震構造、制振構造、免震構造、制振装置、地震エネルギー、固有周期、層間変形角、加速度、層せん断力、層間変形角、エネルギー吸収比、ダンパーのコスト、時刻歴応答解析、純ラーメン構造、ブレース付きラーメン構造、多段階最適化、多質点系モデル、MDOF model、骨組みモデル、Frame model、超高層建築、意匠設計、構造設計、日本建築学会

省略

まずは必ずしも設計者が取り組む必要のない繰り返し作業をできるだけ排除

御社は、建築設計事務所様の中で最初にmodeFRONTIERをご採用くださり、成果をご発表いただいたおかげで、直近では複数の建築設計事務所様でもご導入いただくことができました。どうもありがとうございます。
ここからは最適化技術の適用事例についてご紹介いただけますか?
最近、業界内においてmodeFRONTIERの適用事例がずいぶんと増えてきた印象を持っています。我々は、最適化開発の優先項目として繰り返し作業が発生する部分から着手しました。例えば、災害発生時の安全性など、建物性能に関する検討はもちろんのこと、建築空間において我々が専門とする建物の骨格たる構造の役割は非常に大きいため、設計の上流プロセスでの架構計画などにも最適化技術を適用しています。
事例紹介の前に、建築で用いられる構造システムについて簡単にご説明します。地震の多い日本では、構造システムは、地震エネルギーの吸収方法の違いによって耐震構造、制振構造、免震構造の3つに分類されます。耐震構造は、柱や梁といった建物の骨組み自体が損傷することで地震時のエネルギーを吸収します。制振構造は、建物に設置された制振装置が地震エネルギーを吸収することで骨組みの損傷を抑えます。一方、免震構造は、免震装置により建物が揺れる周期(以下、固有周期)を長周期化することで、地震の入力を免震装置が配置されている層に集中させることで骨組みへのエネルギー入力を抑え、損傷が生じないようにします。そのため、制振構造や免震構造では、建物の特性にかなったデバイスの選定が必要です。ここで最適化技術を導入することによって、様々なデバイスのパターンを検討し、より効果的な構造システムの提案が可能になります。
図1 建築で用いられる構造システム
こちらは制振構造の耐震設計フローです。まず建物の骨組みを設計するとともに目標性能や設計条件を設定します。建物の性能には、各階の上下での相対変量をその階の高さで割ったもので地震時の変形の大きさを表す指標である層間変形角、加速度その他、骨組みに影響を与える地震の力を示す層せん断力など様々な指標が考えられます。また、設計条件には、建物の重量や高さ、固有周期などがあります。従来の設計では、建物全体を一つの質点とみなした一質点系の概略モデルで適切なダンパー量、すなわちデバイスの種類と数を決定し、その後、各階を一つの質点とする多質点系の近似モデルでデバイスの効果を確認していました。しかしこの方法では、特殊な構造システムを対象とする場合に、最初の概略モデルを求めることが非常に難しいなど、使用できる場面が限られていました。最適化技術を導入することで、あらかじめ建物の各階に設置するデバイスを想定しながら、その効果を検証するという作業を繰り返し行い、得られた最適解を設計者が分析、選定するという新たな設計フローを構築することができます。
図2 制振構造の設計フローと最適化
最適化の対象建物(注:図3右図)は地上30階建て、建物の高さ約160メートルの複合施設です。架構計画上の特徴として、高さ方向で建物用途が変わる部分にトラス構造を設けることで、そのトラス構造の階の上下で柱の間隔を切り替えています。この事例では、耐震性能に関するデバイス配置の最適化についてご説明します。
最適化の設計変数には、デバイスの種類(※1)、性能、設置基数を扱い、デバイスの性能や設置基数を示す設計変数の候補値は建物用途の範囲ごとに設定します。目的関数には、 ダンパーのコスト、層間変形角、デバイスが吸収するエネルギー量(以下、エネルギー吸収比)、建物に発生する地震力(以下、層せん断力)の4つを扱います。
最適化計算は、コストとその他の3指標のうち1つを目的関数とする2目的最適化問題として取り扱い、合計3ケース(※2)の最適化を実施します。制約条件には、層間変形角を考慮しました。地震波を入力して建物モデルを揺らすシミュレーションである時刻歴応答解析で考慮する設計入力地震動は、建築基準法の告示で定められている「極めて稀に発生する地震動(告示波)」のランダム位相、神戸位相、八戸位相の3波とします。

(※1)i)ダンパー無し ii) 鋼材を降伏させることでエネルギーを吸収させる座屈拘束ブレース iii) 粘性体が速度に比例して抵抗するオイルダンパー
(※2)コスト-層間変形角、コスト-エネルギー吸収比、コスト-層せん断力
図3 制振構造の最適化事例
各最適化ケースの最適解(注:パレート解)のうち、代表4個体ずつを左側表に示しています。色分けした枠線で示した最適化ケースごとに、表の左から右に行くにつれて性能が高く、逆に左へ行くほどコストが安い解を示します。表内で青色、橙色、灰色で色塗りされた数値は、選択されたデバイスの種類である変数の入力値を示しています。パレート解の傾向を見ると、“コスト-層間変形角”や“コスト-エネルギー吸収比”の最適化では、建物各階にデバイスが配置されるのに対して、“コスト-層せん断力”の最適化では全体的にデバイス数が少ない結果となります。この結果から、今回の建物では、対象とする性能を何にするかによりデバイス配置が異なることがわかります。
図4 制振構造の最適化結果:ダンパー配置パターン
先ほどの代表個体のうち、代表2個体(注:図5左図の色枠線で囲った解)に対して、時刻歴応答解析の結果である層間変形角と層せん断力を右側図へ示します。青線で示す“コスト-層間変形角”の最適化では、個体間で建物の高さ方向中央付近にある事務所部分において明確な差異が生じています。赤線で示す“コスト-エネルギー吸収比”の最適化では、層間変形角と層せん断力について個体間で大きな差異は見られません。一方、黒線で示す“コスト-層せん断力”の最適化では、他の最適化結果と比較して建物下部に明確な差が表れます。
当該プロジェクトでは目的関数以外の指標や異なる条件での解析結果を確認し、“コスト-エネルギー吸収比”の最適化結果をベースに設計を進めていきました。
図5 制振構造の最適化結果:各指標の傾向

最適化ツールを“設計スタッフ”として活用することで、検討数の大幅増と情報量に厚みが生まれた

ここからは、設計序盤での設計案選定に際して、架構検討作業に最適化ツールを用いて検討したプロジェクトをご説明します。
建築の設計は、基本計画、基本設計、実施設計、工事というステージにわかれています。ここでご紹介するのは、建物の機能や性能設定を行う基本設計ステージへの適用事例です。
対象となる建物は、須賀工業株式会社様の120周年事業の一つである本社社屋で、地上9階、地下1階、塔屋1階で高さは約40メートルです(注:その他の建物の概要は日本設計様のWEBサイトをご高覧ください)。本計画は、東京都江東区に位置しており、永代通りと大横川に挟まれた敷地かつ隣地建物も近接することから、構造架構を設計する上での制約が厳しいものでした。
基本設計では、建物性能の設定と併せて、採用する構造システムの選定や部材寸法の設定が重要な検討事項となります。そのため、想定される複数の架構計画に対してmodeFRONTIERによるキャリブレーションを行い、それらの結果を基に設計方針を選択しました。これは、設計者が手作業で行っていた検討の一部を、最適化ツールが“設計スタッフ”として役割を担った事例とも言えます。
右側図に建物の架構平面図を示します。敷地や建築計画などの要件から柱を配置できる場所に制限があり、構造架構計画を行う上では建物長手方向の設定がコストへ与える影響が大きいため、長手方向を中心に最適化を行いました。また、梁せいは建物の階高へ影響を与えるため、建物性能とコストに対して梁せいが与える影響を定量化することも最適化を行う目的の1つでした。これらの検討自体は各プロジェクトで共通する検討内容ですが、本事例では最適化の活用により、従前と比べて検討数を大幅に増やすことができ、定量的な裏付けの情報量に厚みを持たせることができました。これは最適化ツールが設計スタッフとなって解析検討部分を担ってくれた恩恵だとも言えます。
設計変数には柱、梁、ブレースの断面寸法を、目的関数には鉄骨数量を考慮した最適化を行います。制約条件には耐震安全性を示す断面検定比、地震時の建物の揺れにくさを示す最大層間変形角、建物の捻じれにくさを示す偏心率を取り扱います。これらは、建築基準法で定められている制限値を基に設定します。
架構の大方針として、柱と梁のみで構成される架構である純ラーメン構造と、純ラーメン構造の中に耐震要素であるブレースを設ける架構であるブレース付ラーメン構造が想定されたため、最適化ケースとして、梁せい600の純ラーメン構造案、梁せい600のブレース付ラーメン構造案、梁せい500のブレース付ラーメン構造案の3ケースを想定します。いずれのケースも内部のX3、X4通りの柱は断面一定として、外周柱のみ300~400角から選択するようにします。外周柱は、右側図の赤四角と水色四角で囲ったグループを別変数として扱い、梁も設計的な観点からグルーピングした上で設計変数を設定します。また、ブレース付きラーメン構造のケースでは緑色の矢印の箇所にブレースを考慮します。
最適化を実際のプロジェクトへ適用する場合、設計変数や目的関数など、あらかじめポイントを絞りながら最適化を進めていかないと、出てきた結果の傾向を分析することが難しいと感じており、本事例では架構計画ごとのケースに分割して最適化を実施しました。
図6 架構の最適化概要
最適結果のうち制約条件に関して分析した結果がこちらです。各円グラフは、それぞれの最適化ケースにおいて制約条件を満たしていない解の要因の比率を示したものです。純ラーメン構造案のケースでは、ほとんどの個体が梁に発生する応力と建物全体の変形で決まっていることがわかります。一方、ブレース付ラーメン構造案のケースでは、ブレースに取り合う柱への応力が増えるため、柱の応力で決定される個体の比率が増えています。同じブレース付ラーメン構造案のケースで比較すると、梁せいの寸法が小さくなることによって建物全体の変形が厳しくなる傾向も見られます。このように、最適化結果の傾向が設計者の直観とも整合しているかを逐次確認しながら検討を進めて行くことが実際のプロジェクトでは重要であると考えます。
図7 架構の最適化結果:制約条件についての分析
純ラーメン構造案の最適化ケースにおける各変数と目的関数の関係についてご説明します。左側図の横軸が変数と目的関数の項目を、縦軸が各項目の数値です。最適化結果のうち、目的関数である鉄骨量と制約条件である梁の安全性が、設計者が見たい指定の数値以下になっている解を緑線で示します。ここで、左側図内の左から右へとつながる1本の線が1つの個体を示しています。各個体の傾向を見ると、外周柱のC11、C12、梁のGX1は各個体とも同様の傾向を示しています。そのため、これらの設計変数については選択肢が少ないことがわかります。一方で、外周柱に取り付くGX21やGX22は選択の余地が存在することがわかります。このように、複数の最適解を比較して、構造システムごとの性状把握が行える点が最適化を用いる利点であると考えます。
図8 架構の最適化結果:変数と目的関数の傾向
全最適化ケースの結果の比較を左側図に示します。横軸がコストを示す鉄骨量、縦軸が部材の安全性の指標です。同じ梁せい600の純ラーメン構造案とブレース付ラーメン構造案を比較すると、ブレースを設けることで同じ安全率を保ちつつコストを削減できることがわかります。また、ブレース付ラーメン構造案同士でも500から600へと梁せいを大きくすることで同様の安全率においてもコストが小さい解があることがわかります。
これらの傾向は最適化を行う前から経験知に基づいて予測できていましたが、最適化を用いることでコストと安全性の関係を定量的に示すことができます。また本事例でも施主様や他部門の担当者と会話する際に、最適化結果を役立てることができ、これらの結果をプロジェクト関係者間で共有し、最終的に青丸で示す案を基に設計を進めました。
図9 架構の最適化結果:構造形式の比較

これまでの最適化技術を発展させた“多段階最適化”

冒頭のプロジェクト紹介でも触れましたが、我々は、都市開発や超高層建築を数多く手掛けていますので、それらに対して最適化技術をどう適用すべきかという検証も行っています。先述のデバイス配置の最適化や架構の最適化に加えて、架構の地震時挙動の最適化も取り入れ、それらを段階的に適用する“多段階最適化”という設計手法を試行しています。本手法によって、超高層建築の構造架構や制振装置配置を設計フェーズの早い段階において、複数案を従前の設計手法よりも精度よく提示できるのではないかと考えています。
各最適化計算の詳細は、論文(※)で発表していますが、手順の概要としては建物の各階を1つの質点とバネとして取り扱う概略解析モデル(注:多質点系モデル=MDOF model)を用いた最適化と、全ての部材をモデル化した詳細解析モデル(注:骨組みモデル=Frame model)を用いた最適化を組合わせて行います。
設計序盤では建築計画に基づき、建物各階の幅と奥行きといった建物寸法(注:≒建物の概略重量)が得られますので、それらの情報を基に、概略解析モデルを用いて建物の地震時挙動の設計方針を最適化により決定し、その架構特性に対してデバイス配置を決めるための最適化を行うと、構造設計案の大まかな方針を決定できます。また、最適化の条件を調整することで複数の構造設計案を提示することが可能となります。得られた各設計案に対して、詳細モデルを用いた部材断面の最適化を、先述した最適化事例で用いた手法で実施し、設計案を実現するために必要となる躯体コストを得ることができるようになります。
設計フェーズが進むにつれて、建築計画が大きく変わる場合は同様の手順を踏むことで別設計案の取得が可能となります。最適化により検討手順は自動化が可能となるため、別設計案の取得も効率化が図れると考えています。

(※)武居秀樹、浜田英明:日本建築学会「第18回コロキウム構造形態の解析と創生2023」(2023.11)
図10 多段階最適を用いた設計フロー
本手法の適用事例を紹介します。解析対象建物は、図に示す地上25階、地下1階、高さ約100メートルの、一部がCFT柱の鉄骨造の事務所ビルとし、制振装置は赤塗箇所への配置を可能とします。想定するデバイスはオイルダンパーとします。
図11 解析対象建物
概略モデルによる最適化結果を図に示します。地震時の挙動として、高さ方向に均一に変形する架構と、部分的に変形を許容して地震エネルギーを吸収する架構が得られていることがわかります。設計者はこれらの多様な最適解から設計案の選択が可能です。
図12 多段階最適の結果:概略モデル
詳細モデルによる最適化解の時刻歴応答解析の結果を図に示します。概略モデル(注:黒凡例)の地震時挙動を、詳細モデル(注:色付き凡例)が概ね再現できていることがわかります。 これらの結果より、実プロジェクトを想定した試行建物において本手法の有用性を確認することができました。今後は本手法を進行中の各プロジェクトへ展開していく予定です。
図13 多段階最適の結果:詳細モデル
現段階で、最適化技術の導入前後を比較してどのように評価されていますか?
圧倒的に検討ケースが増えています。導入前は人が作業するため、工数の都合で2~3ケース程度しか計算できませんでしたが、自動化することで数100~数1,000ケースまで計算できます。また、計算後には結果を比較・評価しなければなりませんが、その準備にも工数はかかりますしね。スタッフが1人増えたようなイメージです。

実際のプロジェクトでは、単純に工学的な指標だけで決まらないことが多々あるので、設計の初期段階の方針検討を行うときに人的工数をかけるのではなく、機械的に計算するのは非常に効率的だと思います。また、設計案がある程度収斂してきたタイミングで、最適化を用いて設計案周辺の案を定量的に検討するといった使い方も有効であると感じています。
現在、私は設計者をサポートする立場でもありますので、「最適化技術でこのようなことはできないか?」といった、アイデアレベルで相談を受けることがあります。そういったケースでは「最適化を適用するための問題点整理や言語化」、「先行研究や社内実績などの紹介」、「最適化ツールの開発」というように、各ケースの状況に応じて対応しています。設計者の要望を、技術開発担当者へ即座に相談できる組織体制が日本設計の構造部門の特長と考えております。

段階的に最適化を適用していくという考え方や適用方法は、設計者としての経験がある彼ならではないかと思います。
省略

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