電子情報技術産業協会(JEITA) 様(IDAJ news vol.123)
複数熱源を持つメモリデバイスの熱設計用簡易モデルの作成と検証に、Simcenter Flotherm・modeFRONTIERを適用
電子情報技術産業協会(JEITA)
半導体標準化専門委員会 半導体システムソリューション技術委員会 半導体構造設計技術サブコミティ メモリシステムワーキンググループタスクグループ1 様
IDAJnews vol.123お客様紹介コーナーより抜粋
発行日2026年3月
課題等:簡易モデル作成、熱解析、受託解析、時間短縮、熱設計効率化、最適化、メモリデバイス、複数熱源、NAND型フラッシュメモリ
省略
- 今回のプロジェクトでは、実用可能な複数の熱源を持つメモリデバイスの簡易モデルを検討されましたが、本プロジェクト発足に至った経緯をお聞かせください。
- 現在、JEDEC(※1)で2008年に策定されたDELPHI(※2)モデルが熱設計用の簡易モデルとして広く使用されていますが、このモデルは単一の熱源を前提としています。一方で、近年スマートフォンなどのモバイルデバイスで使用されるメモリストレージデバイス(以下、メモリ)は、NAND型フラッシュメモリ(※3、以下NAND)とコントローラで構成されており、複数の熱源を持つものが一般的です。そのため、既存のDELPHIモデルを現在の主流である複数熱源を持つメモリにそのまま適用することは不可能でした。
一方で、メモリを製造する立場から見ると、多くの機密事項を含んだメモリの詳細情報を、メモリを使用する製造業のお客様と共有することは現実的ではありません。
そこで、詳細情報を開示しなくても、熱設計に必要な判断ができる簡易モデルを使って熱シミュレーションを行えないかという思いから、検討が始まりました。また、簡易モデルは計算負荷が小さいため、解析スピードの向上という点でも大きなメリットがあります。JEITAとして、複数熱源を持つメモリシステムに対して実用的な簡易モデルの規格化ができれば、メモリの熱設計効率化につながるのではないかと考えています。
(※1)JEDEC:Joint Electron Device Engineering Councilの略。マイクロエレクトロニクス業界のオープンスタンダード開発における世界的リーダーで、業界の多様な技術・開発ニーズに応える標準規格を作成することを使命とする団体
(※2)DELPHI:Development of Libraries of Physical Models for an Integrated Design Environment の略
(※3)NAND型フラッシュメモリ:電源を切ってもデータが消えない不揮発性メモリの一種
熱設計は重要だが、機密情報が多く詰まった詳細モデルは開示できない
熱設計に適用可能な、複数熱源を有するメモリデバイスの簡易モデルを作成
- それでは、今回のプロジェクトの取り組み内容を具体的にご紹介いただけますでしょうか。
- まずSimcenter™ Flotherm™を使って、一般的なUFS(※4)メモリを参考に作成した解析モデルの熱シミュレーションを行い、その結果を教師データ(※5)としました。次に、JEITAのメモリシステムワーキンググループ(以下、メモリシステムWG)において検討した熱抵抗モデルのトポロジーをもとに、modeFRONTIER®を使用して、教師データとの誤差が10%以内に収まるような熱抵抗の組み合わせを探索しました。
教師データの算出や検証など、シミュレーションに関わる部分は、IDAJさんに依頼し実施していただきました。
(※4)UFS:Universal Flash Storageの略。スマートフォンやデジタルカメラなどに使われる次世代の超高速フラッシュメモリ規格
(※5)教師データ:AI(人工知能)では、「問題(データ)と正解(ラベル)」のペアで学習するために使われるデータを指すが、本稿における熱設計では詳細情報を用いたシミュレーション結果を意味する - 検証に使用したベースモデルのメモリ構造と熱伝達係数は、一般的なスマートフォンを想定して準備しました。
メモリ構造は、図2左下図のとおり、NANDとコントローラを横置きにした構造です。熱抵抗のノードは、Top側ではNANDとコントローラの各熱源の直上にそれぞれ1点ずつ、計2点設けました。Bottom側では、UFSメモリの特徴であるはんだBall(注:信号端子)の有無に基づき、はんだBallを有する範囲をBottom inner、有さない範囲をBottom outerと定義し、それぞれにノードを設けました。そして、これらのノードを熱抵抗で結ぶ11抵抗モデルを作成しました(図2左上)。
境界条件はTop側とBottom innerの熱伝達係数を200W/(m2・K)または400W/(m2・K)、Bottom outerの熱伝達係数を30W/(m2・K)または90W/(m2・K)とし、その組み合わせによって8通り設定しています。NANDとコントローラの発熱比は、3対7、5対5、7対3の3通りとし、計24通りの条件でシミュレーションを実施しました。 - 図3がシミュレーション結果の2次元散布図です。グラフの横軸がNAND、縦軸がコントローラにおける24条件での最大誤差の値を示しています。24通りの条件で各5,000回シミュレーションを行ったところ、誤差が10%以内となる複数の結果を得ることができました。
簡易モデルを使用することで、熱シミュレーションにかかる時間を約5分の1に短縮
- 次に、UFSメモリがスマートフォンに多く採用されている点を踏まえて、より多様な電子機器の熱設計に対応できるよう、境界条件の範囲を拡張したシミュレーションを行いました。ここでは、Top側の熱伝達係数の値が極端に異なる場合でも、詳細モデルを用いたシミュレーションの結果と簡易熱抵抗モデルを用いたシミュレーション結果の誤差が10%以内に収まるかどうかを検証しました。
Top側の熱伝達係数は、高性能スマートフォンに搭載されているVapor Chamberを想定して1,000W/(m2・K)、一般的なスマートフォンでは放熱対策に余裕があり、冷却部品を用いていない事例が多々あるため、Open Topを想定して10W/(m2・K)としました。また、基板の放熱性能が想定した値より高い可能性を考慮するために、Bottom innerの値を400W/(m2・K)から600W/(m2・K)に変更しました。これらの境界条件以外は図4に示すとおり、図2と同じです。 - 図5は境界条件を大きく広げた条件での熱抵抗値の探索で得られた、NANDとコントローラにおける教師データとの誤差の2次元散布図です。この条件においても、両チップの誤差が10%以内に収まる熱抵抗の組み合わせが存在することが確認できました。
- 図6左図は誤差が10%以内となった抵抗値の一例で、図6右図は図6左図の抵抗値を用いた場合の各シミュレーション結果と教師データの解析結果との誤差をテーブルで示したものです。この結果から、24通りすべての境界条件で誤差10%を下回っていることが確認できます。
- 今回用いたUFSメモリを模擬したモデルにおいては、Vapor Chamberを搭載した高性能モデル、あるいはTIM(※6)を用いないOpen Top構成のモデルであっても、図6左図に示す抵抗値を用いることで、NANDとコントローラの温度を、詳細モデルで解析を行った際と同等に予測できることが確認できました。また、熱抵抗値を用いた簡易モデルのシミュレーションは、詳細モデルで行うシミュレーションに比べて、約5分の1という非常に短い時間で結果を出すことができます。これが普及できれば、デバイスベンダーとお客様の情報共有が楽になるだけでなく、解析や設計の効率化の面でも効果があると考えています。
(※6) TIM:Thermal Interface Materialの略
「この数値は妥当なのか?」という判断時のサポート他、"IDAJの伴走"が奏功
- ご説明ありがとうございます。当社もJEITAの半導体構造設計技術サブコミティに参加させていただいており、今回は熱解析と最適化のシミュレーションを担当させていただきましたが、ご依頼いただいた案件の全体を通して、率直なご感想をお聞かせください。
- 今回のプロジェクトでは、複数熱源の簡易モデルという前例の少ないテーマを扱うことになりましたので、プロジェクト開始時点では不明な点は仮定して進めざるを得ないステップが多く、解析条件の設定自体が難しい状況にありました。そのような中で、以前からJEITAの活動を通じてIDAJさんとは面識があり、Simcenter FlothermとmodeFRONTIERの連成実績も多数お持ちであることから、解析分野における技術的な知見の深さを信頼し、今回の検証についてご相談させていただきました。
最初にTop側・Bottom側の熱抵抗値を設定する際は、過去の類似シミュレーションの実績を踏まえた仮置きの値をご提案いただき、検討を進めることができました。また、パラメータ探索においても、明確な正解がない中で、これまでの知見を基に、得られた結果についての理論的な背景や妥当性を丁寧に説明いただけた点は非常に心強く思いました。さらに、探索範囲を広げた際には、それに応じて熱抵抗値の範囲を見直すなど、「この数値は妥当なのか」という判断にあたって随時サポートしていただきました。単に計算を実行するだけでなく、結果の解釈や理論による意味付けまで含めて伴走していただけたことが、今回の成果につながったと感じています。
JEITAとしても、本プロジェクトは重要な成果が得られた取り組みであったと認識していますし、私が所属しているキオクシア社内からも大きな反響がありました。
実際に、誤差10%以内に収まるモデルに合わせ込むことができ、実用化が視野に入るレベルまで到達できたのは、IDAJさんの技術力と経験によるところだと思っています。
省略
このインタビューの詳細は季刊情報誌IDAJ news vol.123でご覧いただけます。
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ご活用いただいている製品
- 分野1:
- 熱流体解析
- 分野2:
- 最適設計
