IDAJ

Case Study実績・お客様事例

カルソニックカンセイ 様(IDAJ news vol.79)

新クーリングシステム"SLIM cool"の燃費向上検証に「GT-SUITE」をご活用

カルソニックカンセイ 株式会社 グローバルテクノロジー本部 環境技術開発グループ 様
IDAJ news vol.79お客様紹介コーナーより抜粋
発行日 2015年3月

解析種別:モード走行過渡解析、オイル回路、冷却水回路
課題等:燃費改善、複合型熱交換器、SLIM、cool、冷媒、風洞試験、3次元化

省略

従来比40%の省スペース化、3%前後の燃費改善を達成した「SLIM cool」

続いて、複合型熱交換器「SLIM cool」についてご紹介ください。
弊社では、世界に先駆けて25年以上前からアルミ熱交換器を市場に投入し、ラジエータ、コンデンサ、ファンモータなどの部品を、車両前端部に効果的に配置・モジュール化した製品を開発してきました。近年、乗用車用の動力システムとして、過給機付きガソリンエンジン、クリーン・ディーゼルエンジン、ハイブリッドシステムなどが注目され、シェアを伸ばしていますが、これらには、従来の自然吸気エンジンの冷却に必要なラジエータやエアコン用のコンデンサなどに加えて、いくつかの追加の熱交換器が必要となってきます。たとえば、過給機付きガソリンエンジンやクリーン・ディーゼルエンジンには、CAC(註:Charge AirCooler)が、またハイブリッド車には、電気モータや制御インバータを冷却するためのサブラジエータが必要です。
だからと言って、これまでの熱交換器に単純に別の熱交換器を追加していては、レイアウトスペースの増大、重量増加、ファンやコンプレッサの大型化に伴う燃費の悪化といった問題が生じます。そこで、世界初の技術を盛り込んだ「SLIM cool」を開発しました。
「SLIM cool」はガソリン・ディーゼルエンジンだけでなく、HEV・EVにも適用可能な技術です。
図1 SLIM coolの特徴と構造例
図1 SLIM coolの特徴と構造例
図1 SLIM coolの特徴と構造例
SLIM coolは、世界初の部分水冷COND(註:コンデンサ)を採用しており、特許も取得済です、これは冷媒の熱交換効率の向上と合理的なレイアウトの形成を実現し、ラジエータファンとコンプレッサの動力低減によって燃費向上に貢献するシステムです。弊社で実施したある実車試験の例では、熱交換器部の厚さを従来比40%にまで削減して省スペース化を図りながら、JC08モードで燃費が3%改善する結果が得られています。一般的なカタログ燃費のJC08モードではエアコンを使用しませんが、実燃費との比較例として、従来仕様とSLIM cool仕様をそれぞれエアコンON状態でモード走行させ、燃費を比較した結果です。
エンジン設計や車両設計に携わっていらっしゃる方はご承知のことだと思いますが、燃費改善は1%でさえも、達成が非常に困難な数値ですので、今回の改善は国内外を問わず注目していただいている技術です。
この燃費改善効果を実現する技術は、エアコンやCAC、ラジエータ、モーターファン、フロントエンドの風流など、複数の技術要素を複合させて効果を出しています。夏のエアコン使用時は燃費改善ができ、それ以外の季節は省スペース化や耐熱時のファン小型化といったメリットがあります。SLIM coolで用いたこれらの技術要素は、自動車メーカー様においては複数のご部署に関わる知識となります。効果をご理解いただくために弊社で効果確認した実車をお貸し出しして試験をお願いしていますが、風洞試験には大変な労力がかかるので、なかなか試験まで行っていただくことは困難な状況です。そこで、効果を出す要素が複合的であっても簡単に効果説明ができるトータルシミュレーションツールを探していました。
図2 水冷CACと水冷CONDの冷却
図2 水冷CACと水冷CONDの冷却
画期的な技術を持つ「SLIM cool」ですが、どのようにしてこの技術や製品を着想されたのか、読者の皆様も大いに興味をお持ちの点だと思います。差支えない範囲でご説明ください。
2001年から2002年にかけては、将来的に必要な技術シーズを見つけようとしていた頃でした。そのような中である仮説に基づいて、"今後はフロントエンドの設計がこれまでよりずっと厳しくなるのでないか"という予測を立てました。この予測に対してエンジン冷却システムについての様々な検討を重ねるうちに、実際の市場でのモニター走行の実測データパターンから、コンデンサとCACの負荷が、交互に反対の値を示すことに注目しました。つまり、交互にしか放熱しないということは、同じ熱交換器を走行条件別に冷却対象を切り替えて使用することができるため、それぞれに専用の熱交換器を設置する必要が無いということです。ここから、特許を取得した水冷CACと水冷コンデンサを組み合わせた冷却システムを思いつきました。また、水冷コンデンサ内の水が夜間に外気温度が下がるという自然の力で冷却されて、蓄冷されていることに気づきました。エンジン始動時には、この蓄冷効果で水冷コンデンサの性能があがるためエアコンサイクルの効率が向上し、燃費改善に活用できることがわかりました。
単純に装置を追加するのではなく、現象をよく理解することによって新しい着想を得て現状のシステムを改良し、さらに自然の力を利用する、いずれも環境に配慮した手法であり、これらが「SLIM cool」の原点です。

エアコンモデルだけでなく、車両のトータルシミュレーションができることが魅力

SLIM coolによる燃費向上の検証にGT-SUITEをご利用いただいていますが、GT-SUITEをご採用いただいた理由をお聞かせください。
導入時にはもちろんいくつかのソフトウェアを検討したのですが、最終的にGT-SUITEに決めたのは、次に示す理由からです。
  • エアコンを含んだフルビークルモデルの構築が可能
  • サンプルのエンジンモデルが豊富で、計算モデルを様々な自動車メーカー様にご紹介・配布が可能
  • 補機の負荷変更に対応して、エンジンモデルの消費燃料が適切に変化する、また変化を調整することができる
  • 熱交換器部分を簡易的に、かつ素早く3次元化し、ある程度の精度で風速分布の計算が可能なCOOL3Dがある
  • データのブラックボックス化が可能で、機密部分は確保しながらシステム検証でき、自動車メーカー様と情報交換しやすい
すでに、車両のトータルシミュレーションは必須の技術になりつつありますが、他のソフトウェアではまだまだカバーしきれてはおらず、いくつかのツールで計算して、それぞれの結果を集めて想像するしかありませんでしたので、大きなアドバンテージとなりました。
GT-SUITEを実際に使用してみると、本当に様々な解析に対応しているのに、エラーが出てもメッセージを見れば自分で解決できるほどに使いやすいところに魅力を感じています。以前は、内製ツールを使って部品単体でのシミュレーションを行っていましたので、このシミュレーションの情報をお客様である自動車メーカー様と共有することはできませんでしたが、自動車メーカー様での導入実績が非常に豊富なGT-SUITE であれば、シミュレーションモデルを共通言語のように使用してコミュニケーションをとることもできるのではないかと思っています。
どうもありがとうございます。
では、続いてGT-SUITEを用いた検証計算事例についてご紹介ください。
BMW社530dの従来仕様とSLIM cool仕様の2種類のモデルで計算した事例をご紹介します。
両仕様の差異は、熱交換器の構成のみです。熱交換器単体の性能データ、実車試験による測定データがありましたが、ベース車両の詳細スペックは不明でしたので、BMW社530d車に仕様の似たGT-SUITEにあるサンプルモデルを改修して使用しました。
ベースとしたサンプルモデルのエンジンは、排気量3.14ℓ直列4気筒ディーゼルのFRMモデルで、ドライブトレイン、オイル回路、冷却水回路、エアコンシステム、各種制御ロジック、エンジンルーム内COOL3Dモデルを含めたフルビークルモデルです。まずはこれを元に、ギア比やタイヤ径等を変更して、BMW社530d車仕様に改修しました。さらにCOOL3Dでモデル化した熱交換器部分をBMW社530dの従来仕様とSLIM cool仕様に変更し、それぞれの比較計算をIDAJ様に実施していただきました。今回は、弊社とは関係の無い第三者という立場からIDAJ様に計算していただき、我々の試験した燃費効果が計算でも確認できるかということも、大きな注目ポイントとしました。
図3 ベースモデル
図3 ベースモデル
図4 従来仕様からSLIM cool仕様への改修
図4 従来仕様からSLIM cool仕様への改修
図5 モード走行時の燃費比較
図5 モード走行時の燃費比較
この計算例では、キャビン温度を従来仕様と同等以下にキープしつつ、SC03モードで、実に6.8%もの燃費向上が見込まれるという結果を得ました。燃費効果自体は、このサンプルモデルの計算においてはかなり効果が上がり過ぎたとは思いますが、モーターファン入力やコンプレッツサー出口圧力(Pd)の低減効果など、アイドリング以外は実験に近い値でした。計算と実験の燃費の差の主な要因は、サンプルモデルと実際に試験した車両では、補機動力負荷に対するエンジンへの燃費の影響の差にあると予想しています。これは各自動車メーカー様において、実際の影響度を入れていただければ簡単に修正が可能だと思います。
このように大変な労力が必要な風洞試験をしなくても、GT-SUITEの計算である程度SLIM coolの効果検討、考察ができるという見解にいたっています。また、さらなる性能向上の検討にGT-SUITEの活用を促進し、自動車メーカーの方々と技術情報交換等の交流ができたらと考えています。
省略

このインタビューの詳細は季刊情報誌IDAJ news vol.79でご覧いただけます。
ユーザー登録済の方はユーザーサポートセンターからダウンロードできます。

ご活用いただいている製品

分野1:
熱流体解析
分野2:
1Dシミュレーション(システム・シミュレーション)
ユーザーサポートセンター 無料で資料請求