ローム 様(IDAJ news vol.82)
高精度なパッケージモデルの作成、チップのモデル化に「FloTHERM®」による熱シミュレーションをご活用
ローム 株式会社 LSI商品開発本部 アプリケーションエンジニア部 様
IDAJ news vol.82お客様紹介コーナーより抜粋
発行日 2016年1月
解析種別:熱解析
課題等:過渡熱抵抗、熱容量測定器、T3Ster、半導体
省略
- さて、ローム様には1年半ほど前に「FloTHERM」をご導入いただきました。「FloTHERM」をご採用いただいたポイントを簡単にお聞かせください。
- 導入検討時には、もちろん、いくつかのシミュレーションツールを実際に試用し、比較検討しました。半導体メーカーとして、アプリケーションエンジニアとして重要視したのは業界でのシェアの高さです。その点ではFloTHERMは申し分ない実績でした。特に車載の大手ユーザー様がワールドワイドで使用されているということが決め手となりました。
2つ目は、FloTHERM PACKの存在です。ユーザー様にパッケージのモデルを提供する際、内部の情報が詳細に表現されている詳細モデルをそのままご提供するわけにはいきません。そこで、DELPHIモデル、2抵抗モデルなどのコンパクトモデルでの提供を検討する必要があるのですが、FloTHERM PACKでは、ボタン一つでDELPHIモデル、2抵抗モデルへの変換が可能です。特に最近、要求が増えているDELPHIモデルについては、通常の詳細モデルを作成し、それを38種類の境界条件下で複雑な最適化計算をかけて作成する必要があります。そのために最適化ツールの準備や解析にかかる工数が発生するわけですが、それをFloTHERM PACKではいとも簡単に実施することができます。
3つ目に忘れてはいけないのが、過渡熱抵抗・熱容量測定器T3Ster(註:トリスター、Mentor Graphics社製)との連携の容易さです。実測との詳細な合わせ込みをシームレスに行うことができるT3Sterとの連携環境は、高精度なパッケージモデルを作成する上で不可欠です。特に実測との差を気にされるユーザー様に対しては大きなメリットとなります。現在は、パッケージモデル構築作業において、T3Sterで測定した値を解析に用いることは標準的に行い、JEDEC環境で1層・2層・4層基板での検証を経て精度の高いモデルを作成しています。
最後に、御社の素早く手厚いサポート体制です。少なくとも、私のような電気電子回路技術者にとっては、正直、CFDは敷居の高いものだと感じており、それに対する教育やサポート体制の充実は不可欠でした。そういった点で、御社では、数値解析アカデミーなどの興味深いプログラムを提供されているので満足しています。図1 CFD活用イメージ - 大変励みになるお言葉をありがとうございます。T3SterとFloTHERMの連携は、関心の高い技術で、業界的にも広がりを見せつつあります。構造関数の自動的な合わせこみ技術等はまだまだ課題もありますが、今後も情報交換させていただければ幸いです。
ここからは、熱シミュレーション用熱抵抗モデルの構築についてご紹介ください。 - ICは、Tjが10℃上がるごとに寿命が約半分になり、故障率は2倍になると言われています。またSi半導体の場合は、Tjが175℃を超えると破壊される可能性もあります。そこで、正確にTjを"知る"ことがことさら重要です。しかし、ICのTjは、直接温度として測定することができません。そこで熱抵抗の出番になるわけですが、ここでは、熱抵抗を使用したTjの見積もり方法と現状の問題点についてご説明します。まず、熱抵抗θJAがわかれば計算式を用いて周囲温度を考慮して逆算する形で、Tjを見積もることができます。また、モールド上面中心温度TTを測定して熱特性パラメータΨJTを使用したTjの見積もりも可能です。これらのパラメータは、T3Sterを使用して測定し、提供しています。
図2 熱抵抗を使用したTj見積もり 図3 熱抵抗データの注意点
技術情報だけでなくCFD用モデルも提供
- また、測定に使用しているチップは製品そのもののチップではなく、測定用TEGチップ(註:Thermal TEG)などを使用していることがあります。その場合、製品とチップサイズ、発熱源の面積が異なるため、当然、熱抵抗に差が出てきます。発熱が局所的であれば発熱密度が高くなり、熱抵抗は高くなります。ここ最近、こういった問題点を認識し、自ら熱抵抗を測定しようとされるユーザー様が増えてきていることを実感します。実際の使用環境下での測定になるため有用なデータであることは疑いようがないのですが、その熱抵抗測定自体も問題になる場合があります。ディスクリート半導体のような電流経路がシンプルなものであれば熱抵抗測定も容易ですが、動作モードによって経路が異なるものでは熱抵抗が低めに出てしまう場合もあり、結果として温度の見積もりが甘くなることがあります。また、チップ内部のレイアウトとして発熱箇所が局所的になるものほど熱抵抗値が高くなる傾向にあります。これらを理解した上で測定する必要があるため、中身を理解していない状態で測定に向かうのは危険です。まとめますが、データシート上での熱抵抗を鵜呑みにすることは危険だ、ということです。
図4 熱抵抗測定の標準化と現実との誤差
現在は、すでに数10製品のモデル化を完了しており、順次ラインナップを拡充しているところです。最終的には、パワーマネージメント系製品のほとんどに対してモデル化を完了し、ユーザー様に提供できる環境を構築することを目標としています。 - まさしく、半導体メーカーであるローム様ならではの情報提供ですね。
- これらを踏まえて、弊社で行ったTjを精度よく予測するためのCFD用パッケージモデル構築についてご説明します。CFD用パッケージモデルには、詳細モデルと、2抵抗モデルやDELPHIモデルに代表されるコンパクトモデルがあります。2抵抗モデルは、パッケージをジャンクションから上下に分割しただけの簡単なモデルで、精度が低く、過渡解析には対応していません。詳細モデルは、寸法や物性値などが含まれる抽象度の低いモデルで、ほかの2つのモデルに比べて精度が高いことが特徴です。しかし、内部の詳細な情報の入手が困難であり、共通した規格がないため品質は各社各様で、計算時間もかかります。DELPHIモデルは、コンパクトモデルでありながら、パッケージを多抵抗ネットワークで表現しているため、2抵抗モデルに比べて精度が高く、最も現実的な選択肢であると言えます。
図5 CFD用パッケージモデル 図6 DELPHIモデルの問題点
ユーザー様の開発設計期間短縮を目標に
- 2つ目の問題は、過渡解析に対応していない点です。現在の定常解析であれば、セットメーカーと半導体メーカーの協業によって定義や手法が整理されており、熱設計の情報が共有化されていますが、将来的に必要となる過渡解析に対しては、環境が整備されていない状況です。そこで、JEITAではセットレベルで使用できる過渡熱用パッケージモデル作成のガイドラインを策定中です。これもFloTHERMのネットワークアセンブリ機能を使用することで、簡単に表現することができます。
図7 JEITAにおける取組例
省略
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ご活用いただいている製品
- 分野1:
- 熱流体解析
- 分野2:
- 複合解析(連成・連携解析、複合領域最適化)