IDAJ

Case Study実績・お客様事例

トヨタ自動車 様(IDAJ news vol.102)

GT-SUITEをエンジン開発や冷却システム、車両全体の熱マネージメントに適用

トヨタ自動車 株式会社 クルマ開発センター 計測・デジタル基盤改革部 PTデジタル活用開発推進室 様
IDAJ news vol.102お客様紹介コーナーより抜粋
発行日2020年12月

解析種別:MBD、CASE、MBSE、DMM、技術ばらし、暗黙知、デジタル化、車両システム、熱マネージメント、MBD協業、モデル流通

省略

GT-SUITEはパワトレ、冷却系開発での標準ツール

現在御社では、1次元のシステムシミュレーションツールであるGT-SUITEを標準ツールとしてご活用いただいています。ここからは具体的にプロジェクトに適用されているご状況についてお聞かせいただけますか。
機能を配置するにあたって、図面ではそれを実現することができません。そこで機能配置のためのツールが必要になってくるのですが、0次元や1次元の“やわらかい”ツールは重要です。次元レベルが高いほど様々な現象を高精度に解析できますが、取り扱う変数の数が幾何級数的に増えるため、目的とする解を得るためには適切なモデルを選択する必要があります。一般的に次元が少ない方が変数の数が少なくて済みますので解きやすく、応用・利用範囲がぐんと広がります。
ここでは、冷却系の開発を例にご説明させていただきます。
図1 EHV車両冷却システム例
車両冷却系は、非常に多くのサプライヤー様が製造されている部品で構成されています。したがって、各部品の成立性と全体構想の成立性検討には時間がかかります。従来開発では、ユニットごとに独立して温度予測計算を実施し、その結果を関係者に報告しています。
例えば、冷却システムの手戻りを避けるためマージンを持たせた結果、冷却能力が不足したと仮定します。それを解消すべくラジエターファンの性能強化の検討が行われコスト増を引き起こし、また、冷却能力は温度予測の前提となっているため、再び各設計が温度予測を行うことで検討ループが大きくなり時間がかかります。さらに、計算結果はそれぞれ独立しているため、特に会社間を跨ぐ開発では相互影響が不明のまま試作するというプロセスとなってしまいます。
図2 冷却系開発の取組み(これまでの例)

全体構想や背反確認、新規アイテムの検討に『モデル』を活用

各部品が複雑に関係していると、やはり車両システム全体で検討する必要性が出てきますね。
この問題を打開するためには、関係するメンバーが物理を持ち寄って、いかに早く左バンクを上から下まで回せるか?がキモになりますが、多くのサプライヤー様が関わる開発であるため、弊社単独での順方向の開発はすでに身の丈を超えてしまいました。そこで、グループ各社様に「MBD協業力向上」に関する取り組みをご提案し、快くご協力をいただいています。まずは構想と開発の注力点を明確化して大きく共有し、モデルを活用して、全体構想や背反を確認しながら新規アイテムやユニットを検討しています。
図3 冷却系開発の取組み(目指すべき姿)
確かにこういった共通言語としての『モデル』は有効ですね。具体的にGT-SUITEはどういったテーマでご活用いただいていますか。
現在は、エンジン開発、冷却システム、車両全体の冷却回路などの熱マネージメントや、エンジンの机上適合にGT-SUITEを適用しています。
企画フェーズで特性を決めて、それらを後工程へと落としていくべきなのですが、ほとんどがエンジンとモータ、インバーターを併用した複雑なシステムを持つクルマが多いため、特性設計だけで開発を進めると右バンクからの大きな手戻りが予測されます。そこで、構造や形をある程度見越した上で機能を割り付けるようにしており、まずGT-SUITEでエンジンの出力を予測し、車両の動力や加速度に対してデータを渡すというような流れになります。
GT-SUITEでのモデル化のポイントは、「階層に応じて粒度が異なる複数のモデルを構築すること」、「左バンクの下まで形状やその実現性を素早く確認できること」です。
図4 冷却系開発の取組み(開発の進め方の例)
階層①は車両企画で使用されるレベルで、マップなどが使用されることが多く、商品性能目標が決定されます。階層②は主にユニットやシステムレベルでの性能目標を決定する目的で使用され、冷却水回路などがモデリングされます。ここでは、ファンやラジエタースペックなどが決まり、各ユニットの目標値が決定されます。また、配管の長さや径などの寸法諸元が検討項目となるため、GT-SUITEのモデリング機能が非常に適しています。階層③ではユニット目標を達成するために各部品の検討を行います。冷却器の表面積や部品間位置などといった内部を含めて形にしていきます。ここでも形状因子や材料をパラメータ化できるGT-SUITEが大変便利です。
図5 【階層①】車両企画:商品性能と制御
図6 【階層②】システム企画:機能→ユニット目標
図7 【階層③】詳細企画:ユニット目標→形にする
モデルを用いることで、自社部品の性能の検討及び車両に組込んだ時の性能をタイムリーに検討することができ、また車両メーカー、サプライヤー間での擦り合わせのためのツールとしても利用することができます。これが現在のクルマ開発の実態に適した、実利の取れるモデルベース開発だと考えます。
図8 トランスアクスル+モータ+インバーター「eAxle」

トヨタグループ、さらには日本の製造業全体での取り組みに発展させたい

車両メーカー・サプライヤー間ですり合わせるためのモデルは、日本の製造業の業務プロセスにマッチした考え方だと感じました。まさしく、提唱されていらっしゃる丁寧な仕事のデジタル化ですね!
はい、このように会社の枠組みを超え、グループ全体の仕事の仕方の再構築を始めいています。
例えば、アイシン精機様やアイシン・エィ・ダブリュ様、デンソー様、そしてトヨタ自動車が関わる冷却系設計においては、モデルのIN/OUTやテストパターンを各階層において決定し、各社が担当部品を持ち寄り、全体の冷却系を設計します。そして現在はこの取り組みをさらに発展させて、日本の製造業全体での大きな取り組みを呼び掛けています。経済産業省の自動車新時代戦略会議からの各種アナウンスメントにもありますように、日本の政策としても企業だけでなく産官連携を含めたプロジェクトが進行していますので、将来的には誰もがこのようなすり合わせに参画いただけるようにしたいと考えています。
日本の製造業におけるモデル流通での期待される効果は大きく2つあります。様々な垣根を超えた参加者が取り組む一つのプロジェクトにおいて、割り付けた機能の構造としての目標の達成の可否を、モノを作る前に確認し、V字の左バンクへ移るスピードを上げること、新しい製品を開発する際には、既存製品のどこに手を入れると効率よくシステムを成立させることができるのかを把握することです。システムそれ自体を全員で共有することによって技術開発が加速するものと考えています。
このモデルの流通を実現するためには、産官連携を含めた参加組織の広がりと同時に、モデルで物理を考えることができる、そういった基本的な知識や考え方を理解して、使いこなすことができる人材の育成が急務です。その点も含めて、弊社もそして私自身も使命感を持って取り組んでいます。
図9 冷却系開発の取組み(検討環境の将来の姿)
弊社ではGT-SUITEやmodeFRONTIERといったツールのご提供とともに、エンジニアの育成やモデル作成コンサルティング、モデルの棚の構築、最適化実行環境などモデルベース開発のお役に立てるソリューションを長年ご提供してきた経験がございます。今後もお力になれるよう努力いたします。 続いて、GT-SUITEをご利用いただいてのご感想やご要望などがございましたら、忌憚なくお聞かせください。
GT-SUITEは、1次元のツールでありながら燃焼計算が可能で、ナビエストークス方程式をベースにした流体計算もしっかり解くことができるため、特性設計から後の構造設計にまでつなげることができる精度で、各フェーズの設計を決められるのが魅力です。したがって、エンジン適合を担当している部隊を中心に、相当数のメンバーがGT-SUITEを使用しています。
また、先ほども申し述べたように多部門、複数社が参加する開発になると、それぞれで利用するソフトウェアが異なりますので、どのような技術者と組んでも、一緒にスムーズに業務に取り組めるよう、GT-SUITE以外のソフトウェアとの親和性と操作性の向上、使いやすいライブラリの充実といった改善の継続をお願いしたいと思います。
省略

このインタビューの詳細は季刊情報誌IDAJ news vol.102でご覧いただけます。
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ご活用いただいている製品

分野1:
熱流体解析
分野2:
1Dシミュレーション(システム・シミュレーション)
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