IDAJ

Case Study実績・お客様事例

本田技術研究所 様(IDAJ news vol.80)

歩行者保護のための技術開発に「modeFRONTIER®」をご活用

株式会社 本田技術研究所 四輪R&Dセンター 様
IDAJ news vol.80お客様紹介コーナーより抜粋
発行日 2015年6月

解析種別:構造、荷重最適化、傷害値、強度
課題等:歩行者保護技術、POLAR、歩行者全身モデル、傷害値評価

省略

Hondaの歩行者保護研究が世界の安全向上に貢献

私も、御社が発行された「Honda R&D TechnicalReview」で拝読したのですが、2001年には、先行して歩行者の脚部有限要素モデルについてすでにご報告されていますね。自動車事故によって歩行者がどのようなダメージを受けるのかというデータから、傷害メカニズムを解明して、妥当性の高い傷害値評価手法の確立に取り組まれています。
はい、実事故の解析結果から、「頭」へのダメージは死亡事故に、「腰」「脚」へのダメージは重傷事故につながることがわかっています。では、実際に人間はどの程度の衝撃を受けることになるのか、「どこに体がぶつかるのか」「体のどの位置に、どの程度のダメージを負うのか」というデータが必要です。先ほど申し上げたように、歩行者保護の研究を始めた時期には、他のどのメーカーも取り組んでいない領域でしたので、現象解明と製品開発支援のため、歩行者ダミーの研究・開発も始めました。
法規や第三者機関による試験では、"インパクタ"を止まっている自動車に決められた角度や速度でぶつけて傷害の程度を評価しています。この時、頭は半球状、足は棒のようなもので、それぞれ別のインパクタとして表現されます。でも、実際の事故では、歩行者は自動車に対して「全身で」ぶつかります。まず脚が当たって、それから身体全体が自動車に倒れ込みます。そういう挙動は、部位別のインパクタを使った試験では再現されません。そこで、事故のメカニズムを正しく把握するために、歩行者の全身モデルがどうしても必要でした。
図1 歩行者事故の特徴
図1 歩行者事故の特徴
それがこの「POLAR」なんですね。
はい、そうです。初代が1998年、第2世代が2000年、そして現在の第3世代は2008年に発表したもので「POLARⅢ」です。歩行者の死亡事故では、頭部の傷害で亡くなる事故が最も多いため、ぶつかった時に歩行者の頭がどういう動きをしているのかを再現できるようにしたのがPOLARⅠで、衝突した時の全身挙動のみを再現した初期モデルです。続いて重傷化することの多い膝や脛の傷害を評価でき、全身挙動の精度向上と全身の傷害値を計測できるようにした第2世代モデル、そして、普及が進んでいるSUVやミニバンといったボディが高い自動車への衝突対策まで考慮するため、腰部・脚部の人体忠実度を向上し、胸部の計測を充実させた最新モデルのPOLAR Ⅲにいたります。
図2 歩行者保護の技術研究
図2 歩行者保護の技術研究
図3 POLARⅢで計測できる傷害値 (※本田技術研究所様Webサイトより)
図3 POLARⅢで計測できる傷害値 (※本田技術研究所様Webサイトより)
脚部への傷害が直接生死にかかわることはまれですが、後遺症や社会的コストの観点からその重要性が指摘されています。脚部の受傷形態は、骨折と膝の靭帯損傷に大別されます。歩行者ダミーの脚部をベースに開発されたインパクタは、日本自動車工業会と日本自動車研究所が共同で骨格が曲がる構造を持つFlexインパクタとして開発されました。これは、第3者評価であるJ NCA P(註:Japan New CarAsses smentProgram)でのテストツールとして活用され、その後、日本の法規やEU-NCAPに導入され、さらに各国法規へ導入が検討されています。余談ですが、北極星は英語で「polar star」と言われますが、これからの歩行者保護の指針、道しるべとなるべくこのダミーを「POLAR」と名付けたと聞いたことがあります。その名の通り、Hondaの歩行者保護研究が車両の安全性能向上に貢献できていることを大変うれしく思います。
図4 歩行者保護技術研究
図4 歩行者保護技術研究
図5 脚部インパクタの開発
図5 脚部インパクタの開発
図6 Flexインパクタ
図6 Flexインパクタ
図7 軽自動車初!「N-WGN」がJNCAPファイブスター賞を受賞
図7 軽自動車初!「N-WGN」がJNCAPファイブスター賞を受賞

デザイン形状と荷重、傷害値の関係を可視化

続いて、歩行者保護のための技術研究・開発とCAEの関連性についてご説明ください。
歩行者と衝突した時に頭がボンネットにあたる場合、ボンネットの下には硬いエンジンがありますので、その衝撃は大きなものとなります。衝撃を和らげるためにボンネットを柔らかくつくればボンネット強度の問題をクリアすることができません。また、バンパーにおいて脚を保護するためだけの機能を追求していては、そのデザイン形状は大きな制約を受けてしまいます。したがって、歩行者保護のための技術研究は、多分野においてバランス調整が必要な、まさしく最適化問題と言えます。
乗員保護などの他の安全性能の検証と同様に、歩行者保護の技術研究でも有限要素法を使用して安全性能を評価しています。FEMモデルを用いた構造解析は、90年代初頭から行っていますが、当時は頭だけのモデル化、実現象時間30/1,000秒で約1週間の計算時間が必要でした。これでは、まったくもって現実的ではありませんでした。それが現在では、30分ほどで計算できますので、最適化計算も十分に可能となりました。
2013年から最適化支援ツールmodeFRONTIERをご利用いただいていますが、modeFRONTIERをご利用いただく前は、どのような状態だったのでしょうか。
「コミュニケーション」と「ディスカッション」です!(笑)。現在でもそれは同じなのですが、何か問題が生じると、ダメな原因を分析して、別の担当者に調整を依頼するわけです。解析して、すりあわせして、解析して・・・すべてのバランスがとれるまでこれを繰り返すわけですから、大変時間がかかる作業を根気強く行っていました。
その後、modeFRONTIERをご利用いただいてのご感想はいかがでしょうか。
最初、POLARの研究で使いはじめましたが、すぐに、これは量産ツールとして使用可能だと思いました。相反する要素が 多岐に渡り、それらのバランスを取りながら開発する歩行者保護分野において、modeFRONTIERは相性が非常に良いからです。これまで、デザイン部門や各機能設計担当との調整の後に、FEM計算のために確認項目を自分のグループに持ち帰っていましたが、今ではあらかじめ応答曲面を作成しておいて、デザインの観点から譲れないと言われた時にはすぐに、このデザインではどうかとデザイナーに提案することが可能になっています。ボンネットの形状が少し変わるだけで、傷害値が大きく変わりますので、各機能間のすりあわせは必要ですが、開発効率を向上させるためにはmodeFRONTIERがなくてはならないツールになりました。

従来のパラスタによるCAE検討期間を80%削減

ここからは、modeFRONTIERを脚部性能の予測に適用された事例についてご紹介ください。
歩行者保護性能は、エクステリア形状と部品剛性によって決まるため、デザイン検討段階から性能検証を行うことが重要です。脚部保護についての検討は、車両デザインを模擬したバネマスモデルを用いてデザインの確認を行います。その後、バネマスモデルで決まった荷重特性に基づいてフルモデルシミュレーションを実施します。
図8 脚部保護のためのデザイン検討
図8 脚部保護のためのデザイン検討
従来までのボンネットフード、グリル、バンパー、ロアバンパーのバネマスモデルを用いた性能検証においては、性能を満たすまで計算を繰り返すパラメータスタディを行うため、多大な時間がかかっていました。そこで、modeFRONTIERの応答曲面を使用して、短時間で最適解を導出する手法を確立しました。
まず、車両デザインを変数とし、インパクタ傷害値を出力としました。評価指標の拘束条件を満たす割合が、全解空間に対して未知であったため、効率的に探索できるように最適化を実施しました。定義した目的関数に対し最適化アルゴリズムを用いて5世代のみ最適化を行い、また現象としては非線形性が強いことが予想されましたので、応答曲面の作成メソッドにはRBFを採用しました。
図9 応答曲面の条件設定討
図9 応答曲面の条件設定討
5世代の最適化実行後、RSM距離チャートで精度検証を行い、誤差の大きいデザイン付近に、増補式空間充填法(註:ISF)とランダムサンプリングを用いて効率的にデザインを追加しました。これによって全体的に精度が改善しました。modeFRONTIERの結果処理機能を使うことで、荷重値の設計可能範囲を多次元領域で認識することができ、設計の自由度が向上しました。なおかつ、従来のパラメータスタディによるCAE検討期間を80%削減することができました。
図10 多次元解析チャート開発適用例
図10 多次元解析チャート開発適用例
図10 多次元解析チャート開発適用例
図11 バブルチャート開発適用例
図11 バブルチャート開発適用例
図12 荷重最適化
図12 荷重最適化
今後はどういった分野にmodeFRONTIERの適用を予定されていますか。
脚部保護だけでなく、頭部の保護検討にも適用したいと考えています。また、これまではデザイン性と歩行者保護性能とのバランスを取ってきましたが、それを車体強度、振動騒音、軽量化といった他機能との最適化にも適用したいと思います。
省略

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