IDAJ

Case Study実績・お客様事例

竹中工務店 様(IDAJ news vol.100)

生産性の向上や建築設計の効率化、技術者連携に「modeFRONTIER®・VOLTA」をご活用

株式会社 竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部 様
IDAJ news vol.100お客様紹介コーナーより抜粋
発行日 2020年6月

解析種別:Rhinoceros、Grasshopper、建築、意匠設計、構造設計、環境設計、クラウド、見える化

省略
modeFRONTIERという自動化・最適化ツールご利用いただいている目的をお聞かせください。
昨今は、「働き方改革」という社会的要請に伴って、様々な業界で取り組みが進んでおり、その中で労働生産性の向上が一つの課題となっています。建設業は、長きにわたって生産性があまり向上していないことで有名です。さらに、建設業界としては、地球温暖化や資源の枯渇、世界的な人口増加といったグローバルな課題に対応するために、これまで以上にエネルギー消費の少ない建物、使用する材料がなるべく少ない建物を設計し、施工していく必要があります。そのために設計や施工も、今まで以上に仕事が増えていくことが懸念されます。より少ない時間で、より多くの仕事をこなす、労働生産性の向上に向けて、デジタル技術の活用は不可欠であり、modeFRONTIERをはじめとしたデジタルツールの活用は、我々にとって重要なことだと考えています。

クラアントの要望を指標化して効率的に評価し、設計者がもつ“感性”で判断を下す

modeFRONTIERを適用されたプロジェクトについてご紹介いただけますか?
まずは、大阪府下をベースに、創業から50年以上に亘り、建築の根幹を支える鉄骨架構を製造されている株式会社三栄建設 鉄構事業本部様との協業で、複雑な形態のオフィスビルの設計にmodeFRONTIERを適用した事例をご紹介します。
この建物は、クライアント様の技術力を表現しながらも、社員のコミュニケーションを誘発し、新しいイノベーションを生み出すオフィススペースとして、空間の立体的・多面的なつながりを生み出すボロノイ分割という幾何学で構成されています。この建物の設計は、ボロノイ分割の空間を支える3次元的に複雑な形の鉄骨架構の美しさだけでなく、執務エリアの面積や天井の高さなど、クライアント様のご要望を満たす設計でなくてはなりません。
図1 3次元ボロノイ図
ボロノイは、母点の配置を決めれば、空間の切り分けが決まりますので、設計者は、母点の位置を変化させながら、様々な条件を評価し、より良い解(母点の位置)を得ることを目指しました。具体的に考慮した条件としては、クライアント様の要求されている各部屋の面積や天井の高さ、オフィス内のコミュニケーションの質や空間のダイナミックさ、執務室の使いやすさなどです。これらの条件を評価するためのツールとして、このプロジェクトではRhinocerosという3DCADソフトウェアと、Rhinocerosのオブジェクトを操作可能なビジュアルプログラミングツールであるGrasshopperを利用しました。各条件を評価する指標としては、吹き抜け空間に接続する部屋の数をコミュニケーションの質の指標とし、ボロノイを構成する壁面の面の傾きを、空間のダイナミックさと使いやすさの指標としました。
今回の最適化では、入力パラメータとして①ボロノイの構成点であるX・Y・Zの移動量、②建物の中の6つのスラブレベルを、出力パラメータとして①各部屋の面積、②天井の高さ、③吹き抜けに接続する部屋の数、④エントランスエリアの各面の傾きを、目的関数として①空間の質の最大化、②エントランスエリアの各面の傾きを空間のダイナミックさとして評価しそれを最大化すること、③執務エリアの人間の快適性を担保するために面の傾きをなるべく小さくするという空間の使いやすさを最大化することに設定しました。
空間を数値化して評価する指標についての合意を設計者に得た後、組み合わせ数と計算量にかかわるため、ボロノイ点を何センチ刻みで移動させるのか、また移動させる許容量についても決めました。最終的には、建物のボリュームをあらかじめ指定したうえで、±5メートルの範囲での移動を想定しました。
アルゴリズムはpilOPT、約3,000デザインを夜間に計算して、翌朝、設計者に結果を提出します。この時期はまだGrasshopperMYノードが利用できなかったので、エクセルで各パラメータを設定し、Pythonを介してmodeFRONTIERで最適化実行するためのワークフローを作成していました。
図2 最適化問題設定
図3は、最適化結果です。縦軸がエントランスの各面の傾きでダイナミックさを表しており、横軸が吹き抜けにつながった部屋の数で空間の質を表します。したがって、グラフの右上のエリアが良いデザイン群ですが、このグラフだけでは、設計者の判断に必要な情報を簡単に理解することができません。各出力の値がどうなっているかを見ながらデザインを絞り込むために、設計者にとって便利なのが多次元解析チャートです。部屋ごとに要求されている面積や天井の高さが制約条件となりますが、実際は、厳密に守らなければならない制約条件は少ないのです。と言いますのも、制約条件をクリアしていない場合でも、例えば、ある箇所の面積を小さくすると、別の箇所がより良くなることをお客様にご提案し、それを受け入れていただける可能性があるからです。つまり、ボトルネックとなっている制約条件があれば、それを緩和することで、別の条件を改善することができます。このように多次元解析チャートを使えば、設計者自身が手軽にデザインを調整し、絞り込むことができます。今回の場合は、設計者自身が、ツールを使い慣れていなかったので、設計者と一緒に、デザイ案を10ほどに絞り込みました。
建築のデザインというのは、最終的には、意匠的な側面も含めた全体的なバランスが非常に重要です。設計者は、生成されたデザイン案に対して、出力パラメータなどの指標では判断できない“形”を確認し、より良いデザインとなる1案を選択します。この選択では、設計者の感性が一番活かされるところですので、現状では、この選択の経験は数値化せずに、設計者自身が判断しています。
ボロノイの境界の線そのものが構造の部材となりますが、ご紹介した事例では、建築のプランニングを決めるための最適化計算でしたので、構造やコストなどの指標は含んでいないことを付け加えさせていただきます。
 
図3 最適化結果
図4 デザイン選定時に便利な多次元解析チャート

クラウドサービス等の積極的な活用で、最大で20倍の計算時間短縮に成功

続いては、最適解計算そのものの効率化のために取り組んでいる例を簡単にご説明します。 マイクロソフト社のクラウドサービスであるAzureを活用し、modeFRONTIERでの最適化計算の際に、複数のデザインを並行で実行し、計算時間の短縮を目指しています。
超高層の建物の構造設計の際には、地震発生時の影響を予測するために、自社で開発したHyperというツールを使って応答解析を実施します。実際、制震部材の配置最適化において、4つのデザインを同時並行で最適化し、計算時間をかなり短縮することに成功しています。4デザインを同時に計算することで、単純に4倍の速度が出ますし、さらに計算実行のためのマシンスペックをあげることで10~20倍の速度を達成しました。設計者が普段使っているマシンでは、1ケースあたりの計算に5分ほどかかりますので、1,000~2,000ケースの計算では3日半~7日かかることになります。仮に20倍の速度で計算できるとすると、4時間~8時間にまで計算時間が短縮されます。
また、日本の建築基準法に準拠した設計のために、建設会社各社は、一貫構造計算プログラムを使って、設計構造を満足するか否かを判断しています。弊社ではこの計算に、自社で開発したBRAINというプログラムを利用していますが、これも、クラウド上で並行して計算する仕組みを構築しました。大きなモデルでは、1ケースあたりの計算に5~10分かかりますので、最適化計算の時間を短縮することができます。
このような仕組みも、当グループが作成し、それを各本支店の設計部へと展開することで全社の生産性アップを図っています。

ツールやワークフローなどの見える化で、多拠点のプロジェクトメンバーの業務の切り分けがスムーズに

どうもありがとうございます。modeFRONTIERに加えてVOLTAのご利用も始めていただいています。VOLTAの適用状況はいかがでしょうか?
2019年秋から、VOLTAの利用を開始しました。そこで早速練習をかねて、各本支店のユーザー向けに、VOLTAを使う仕組みを作って公開しています。これまで、私たちが作成したツールを展開するには、ユーザーが各自でそのツールをインストールしなければなりませんでしたので、それが不要になるだけでも、利用へのハードルが下がり、新しいツールの早期普及つながるのではないかと期待しています。

今、ご紹介した取り組みに追従して、私もVOLTAを使って実プロジェクトへの支援をおこないました。これは、VOLTAをプロジェクトに適用した初めてのケースになります。
パラメトリックモデリングが可能なGrasshopperで、現在の設計パラメータを変更可能としたモデルを作成し、構造解析を自動実行する仕組みです。ワークフローは、Grasshopperで建築モデルを作成して、それを構造解析ソフトウェアであるMIDASのインプットファイルに変換して出力、さらに、GrasshopperからMIDASでの計算を実行したうえで、結果をPythonで抽出するループにしています。このワークフローを実現できる環境をVOLTAの計算ノードに構築し、後は全てVOLTA上で計算を実行しています。
また、アタッチメントノードを使って、各ケースの解析モデルデータを、最適化計算結果と一緒に一覧できるようにしていますので、全体を見ながら、一つ一つの解析モデルを設計者の手元で確認できるようにしました。当然、モデルファイルだけでなくpdfファイルやpngファイルについても同様の仕組みで各ケースと紐づけることができるので、modeFRONTIERでは書けないような特殊なグラフや、3Dデザインのキャプチャなどを、最適化の結果とともにウェブ上で共有できる強力なツールとして、今後も積極的に活用していきたいと考えています。
各本支店のVOLTAユーザー様のご評価はいかがですか?
Grasshopperは、触ったことのないユーザーにはとっては少し難解な部分があるのですが、今回のワークフローではユーザーがGrasshopperを使用することなく、VOLTAのユーザーインターフェースでパラメータを変更し、計算を実行し結果を確認した上で、目当てのモデルファイルをダウンロードすることができますので、これは大変便利だとフィードバックをいただいています。また、結果をより深く考察したいユーザーの方は、VOLTAの結果をmodeFRONTIERにインポートして、寄与度分析などのVOLTAではできない高度な分析や追加の最適化を行っているようです。
一方で、ご自身のご業務の効率化は進んでいらっしゃいますか?
このプロジェクトを従来のフローで行うことと比較すると、私個人の業務はかなり効率化できました。各ユーザーのGrasshopperに関する支援がほとんど必要ないからです。また、リモートで最適化を実行できるため、自分のパソコンのリソースを使用する必要がありません。計算実行には、1週間程度かかりますので、その間、私自身のパソコンが計算に専有されると、他の業務に支障をきたしかねません。
またフローを自動化した場合、付随して結果の分析までをやることも多いのですが、どこまでが支援でどこからが設計かの切り分けが難しくなります。VOLTAを利用すると、業務の範囲が明示的になり、設計行為の切り分けがしやすいため、この面でも利用価値を感じています。 VOLTAは、まだ利用を始めたばかりですので、より上手く活用して私を含めたプロジェクトメンバーの業務の効率化、コラボレーションなどに貢献することを目指していきたいと思います。
図5 VOLTA概観
図6 最適化進捗状況のモニタリング画面
図7 ダッシュボード
省略

このインタビューの詳細は季刊情報誌IDAJ news vol.100でご覧いただけます。
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ご活用いただいている製品

分野1:
構造解析
分野2:
最適設計
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