IDAJ

Case Study実績・お客様事例

荏原製作所 様(IDAJ news vol.101)

設計現場をサポートする解析技術に、SIMULIA® Abaqus Unified FEAやmodeFRONTIER®をご活用

株式会社 荏原製作所 技術・研究開発統括部 解析・分析技術部 数値解析技術課 様
IDAJ news vol.101お客様紹介コーナーより抜粋
発行日2020年9月

解析種別:暗黙知、形式知化、自動化、ポンプ、逆止弁、流体構造連成解析、CAP

省略

水中ポンプの逆止弁の現象解明に2wayFSI技術を構築

SIMULIA Abaqus Unified FEA(以下Abaqus)をご導入いただいた理由をお聞かせください。
Abaqus導入以前に使用していた構造解析ツールでは、エッジ接触の問題で計算が収束しないことがあり、既存の構造解析ツールを補完または補強するためのツール導入の必要性を感じていました。新規ツール導入にあたっては、当部の役割である中期的な技術開発において、この問題だけでなく他の課題に対しても拡張して適用が可能なツールであることが求められます。このとき、候補としてあがったのがAbaqusです。Abaqusには、エッジ接触や点接触の機能があり、弊社が運用している計算用クラスターとの親和性も高く、安定的に計算することができました。また、導入にあたっては、当時、新規テーマとしてあがっていた双方向での流体構造連成解析に適用して、計算精度や使い勝手などを検証することにしました。それらを総合して検討した結果です。
Abaqusを適用された検証テーマについて具体的にご紹介いただけますか?
解析対象としたのは、深井戸で用いられる水中ポンプの逆止弁です。逆止弁の先にはポンプが付いており、水を吸い上げたときには弁が開いて水が流れ、ポンプが止まると弁が閉まるという仕組みです。製品性能向上のために、この弁の動作を含めた現象解明をしたいと考えていました。
図1 水中ポンプ逆止弁
Abaqus導入以前は、一方向の流体構造連成解析(註:1wayFSI)を実施し、最大流速での静解析で構造側にかかる力を見積もっていましたが、やはり弁の開閉となると、過渡的な流体とその影響を受ける構造物の状態とを動的にやり取りできる双方向の流体構造連成解析(註:2wayFSI)技術が必要となります。
図2 2wayFSI解析結果
この解析を行うにあたって、難しかった点やご苦労された点はありますか?
弁体が開いた瞬間に大きな力がかかっていないか?、弁体が振動していないか?など、現象として不明だった部分を解析によって明らかにしたいと思っていました。実は、シミュレーションにあたっては、流体側の計算に少々苦労しただけで、Abaqusでの構造解析には特に問題はありませんでした。おかげで、スムーズに導入までこぎつけることができました。
2wayFSIは、これまで取り組んでいなかった技術でしたし、この技術はポンプ事業だけでなく、精密・電子事業にカテゴライズされるCMP(Chemical Mechanical Polisher)装置への応用も想定され、これ以降のハイエンドな構造解析テーマには、Abaqusを積極的に適用するようになっています。

解析作業の自動化と効率化にmodeFRONTIERを利用

御社では、modeFRONTIERも導入いただいていますが、どういったテーマでご利用いただいていますか?また、modeFRONTIERをご選択いただいた理由を簡単にお聞かせください。
新規的な解析技術構築にあたっては、工数の削減や業務の効率化にも配慮する必要があります。解析が一般的になればなるほどトライすべきケース数は増加する一方で、解析ケース数をこなすために必須の技術となるのが自動化です。自動化すると、人間の手だけではこなせないケース数を計算することができますので単純に膨大な結果を入手できます。また手動では排除していたような極端な条件を含めた広い領域で解を探索することができるため、modeFRONTIERの様々ポスト処理機能を使って、膨大な量の入力変数の傾向を見るなどといったことも可能になり、これまで気づかなかった新たな発見が可能になります。
私の過去の経験では、計算の自動化によって得られた多数の結果から考察した内容が、製造現場の作業者が持っている感覚と一致していると言われたことがありました。製造現場におけるこの感覚は、経験によって醸成されることが多く、“勘・コツ“といった「暗黙知」とされており、形式知化することが難しい内容です。それを、解析を通して「形式知化」したことで、設計者が製造現場の作業者が持っている暗黙知を理解することができるようになりました。自動化によって工数を削減することは当然のことですが、私は、自動化・最適化ツールの真の価値は、この「暗黙知の形式知化」と「新規発見」にあると考えています。
作業手順を自動化するだけであれば、一度ワークフローを構築してしまえばその後の運用に問題が生じることは少ないのですが、自動化をベースに暗黙知を形式知にするためのプロセスとして自動化・最適化ツールを活用するためには、やはり最適化技術のプロのサポートが欠かせません。自動化・最適化ツールの選定にあたっては、「暗黙知の形式知化」と「新規発見」に寄与するツールとしての性能はもとより、ユーザーの利用目的を深く探る営業対応力と、それを理解したうえでサポートしていただける、技術サポート力を大きな評価ポイントとしていました。

自動化する上で必要なプロセスは、「暗黙知」を形式知化することにつながる

続いて、解析自動化のフローについて簡単にご紹介いただけますでしょうか?
本来、設計者が集中して取り組むべきは、クリエイティブな設計を行うことです。解析については、設計者個人の技術を磨くという意味では知っておくべきだとは思いますが、解析理論やオペーレーションの習得に時間がかかるなら、極力、解析作業はしたくない・・・というのが本音だと思います。一方で、自身が設計した形状でなるべく正しく、タイムリーに性能評価したいといった要望があります。設計に使用しているCADデータを読み込んで、計算投入ボタンを押せば、自動的に計算が実行され結果が出力される、しかもその設計の合否も自動的に判定され、NGの場合には修正すべき個所を指摘し、さらには最適な形状までも出力してくれるシステムですね。私はこれを実現させることにしました。
以下に示したのは、現在、弊社で構築した自動化フローですが、構造解析ツールを用いて、形状を与えれば結果が出力されるところまでは自動化しました。
ところが、設計がCADデータを使用して解析用のメッシュを作成しようとしても、3次元曲面を多用しているポンプ形状では、多くのケースでメッシュの自動作成に失敗します。そこで、まずはCADデータをヒーリングしてからメッシュを生成し、その後に荷重面や拘束面などの条件設定のために形状を認識させます。基本的には定型の手順ですので、解析作業をそのまま手順に従いプログラミングします。ポイントは、人間が無自覚に判断していること、つまり認知のプロセスをプログラムに置き換えることにあります。ここに暗黙知を形式知化するプロセスが必要になってきます。また、最終ステップの結果処理では、設計者が決まって確認するものだけを出力させるようにしました。
図3 modeFRONTIERを用いた解析自動化フロー
自動化で苦労したのは大きく分けて2つあります。まずは形状認識で、3次元CADから自動で形状を認識させる、特に条件設定面の自動認識が難しい部分でした。そしてもう一つは、ロバストにメッシュを生成することです。そもそもメッシュが切れない、メッシュが切れたとしてもメッシュ品質が悪いと計算が流れない、計算が終了したとしても妥当な結果であるか否か、メッシュ品質が左右することが多くあります。作業者がメッシュを作成していれば、このような問題は感覚的に理解できるため、その場で対処することができます。しかし、自動化するにはその感覚量を定量化する必要があります。そこで、メッシュ品質に関する基準を策定し、その基準をクリアするメッシュを作成するフローを組み込みました。結果的にこれが結構大変な作業になりましたね。
さらに、設計フローを邪魔しない自動化システムにするということでは、“ロゴ”の取り扱いにも苦労したところです。実は、弊社のポンプにはロゴとして品番が入っているのですが、このロゴは、解析上は影響がないためメッシュ数削減のためにも削除しておきたいところです。しかし、設計上は必要な形状となりますのでCADデータとしてはロゴを残し、解析実行時にはロゴを削除することにしました。ロゴマークは平面上にあればまだよいのですが、曲面上にあるロゴを消すのには大変苦心しました。
現在はこのフローに対して、modeFRONTIERを適用することで、設計者が判断している解析に対する合否判定を自動的に判定することと形状修正する仕組みを構築しています。
modeFRONTIERの一般的な使われ方としては、目的関数と評価値がわかっており、それらをより良くするために合わせこむというものだったのですが、御社では、合否判定にmodeFRONTIERを適用するという新しいアプローチですね。目的関数を定義できず最適化にトライできない、自動化を実現できないといったお話をお聞きすることがありますので、人間が判断している個所を、解析フローに反映させる仕組みを探すためにmodeFRONTIERを使うという点が、新しく、他のユーザー様に対しても刺激になる、非常に興味深いお取組みだと思います。
機械学習に取り組まれている方からすると当たり前のアプローチなのかもしれませんが、弊社のこのケースでは、データが少なすぎるため機械学習やAIのアプローチには不向きでした。設計ケース数が少ない状態で、どうやって基準を決めるかを検討しなければなりません。そこで、数十ケースの設計をすべて解析し、その結果をmodeFRONTIERで処理し、合格した設計とNGの設計の間に、どのような物理量の相関が存在するのかという観点で基準を設定することにしました。これはもしかしたらmodeFRONTIERの本来の使い方ではないのかもしれませんが、設計現場に自動化したフローを適用し成果を出すためには、今あるデータから基準を見つけ出して、一定の「トライアンドエラー」を繰り返すことは必要だと思います。特にmodeFRONTIERには多くの結果処理機能がありますので、弊社にとって有用な知見を発見できるのではないかと期待しています。
御社にはCAPモジュールもご導入いただいていますが、そのご活用状況はいかがでしょうか?
個人的に「CAP」は気に入っており、よく使っています。CAPモジュールこそが、他の自動化・最適化ツールにはないmodeFRONTIER独自の特長ではないかと思います。
実験では、初めに決めた水準に対して実験の途中で良い結果が得られれば、すべての実験水準を行わずに、良い結果が出た領域にパラメータを振り直して実施することがあります。その感覚は、modeFRONTIERの多変量解析に近しいものだと思っています。また、全パラメータを対象に一気に多変量解析を適用したほうが手間は少なくて済みます。その多変量解析から得られた結果から考察を深める方が影響関係を把握するのは簡単ですし、多くの発見が得られると感じています。
CAPの機能を使って、動的に結果の傾向を見ることは、感覚的に遷移の傾向を把握することができるため、結果を眺めていると新たな気付きを得られることすらあります。
AbaqusやmodeFRONTIER、IDAJに対するご要望がありましたら、ぜひ忌憚なくお聞かせください。
独立系ベンダーの立場を利用した、固有のソフトウェアに縛られないコンサルティングを期待したいと思います。2wayFSIに代表されるような複雑な現象を解析することが多くなっており、単一のソフトウェアだけでは解くことができなくなっています。一方単体のソフトウェアは各現象に特化してきており、すべての現象を一つのソフトウェアだけで扱うことはできません。弊社も各種ソフトウェアを保有していますが、ソフトウェア連携においては、ベンダー間の壁が課題になります。そこをフォローいただけると助かります。
またIDAJさんのサポートにも期待しています。サポートというと技術サポートをまずは思い浮かべますが、弊社にとっては営業担当の方のサポートも重要だと感じています。技術サポートは、基本的には満足しているレベルです。そのうえで、サポート担当者による差を極力失くすこと、レスポンスの速さと的確さの向上という面に対する取り組みを引き続きお願いしたいところです。一方で営業に期待するのは、ユーザーがすでに認識している課題だけでなく、ユーザー自身ですら認識できていない真のニーズにアクセスして、その課題解決に向けてのフォローや、第三者的立場から弊社内での啓蒙や普及活動に一役買っていただけるとありがたいですね。
省略

このインタビューの詳細は季刊情報誌IDAJ news vol.101でご覧いただけます。
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