IDAJ

Case Study実績・お客様事例

セイコーエプソン様(IDAJ news vol.125)

プロジェクターの電源ユニット設計の効率化に向けて、MBDコンサルティングをご活用

セイコーエプソン株式会社 ビジュアルプロダクツ事業部 VP開発 企画設計部様
IDAJnews vol.125お客様紹介コーナーより抜粋
発行日2026年9月

課題等:開発リードタイム短縮、MBD、設計プロセス改革、エレ・メカ協調設計、スモールスタート、電源ユニット設計、熱設計、シミュレーション活用、解析精度向上、仲間づくり、行動変容

省略
“設計開発の効率化とコスト低減”は、すべてのものづくり企業における目標ですね。アプローチは様々ですが御社でのお取り組みは、他企業の皆様にとってもご参考にしていただけるものと思います。
御社には、2024年7月に“エレ・メカ協調設計”を目指すにあたって、当社のコンサルティングサービスをご採用いただきました。まずは経緯からお聞かせいただけますか。
1989年にEPSONは液晶プロジェクターをリリースし、それ以来の歴史があります。独自の技術を構築し、プロセスに沿って開発を進行していました。しかし、EMC設計をはじめ各セクションでは必要に応じてシミュレーションを活用してきたのですが、設計全体の品質や設計リードタイムの改善には、若干の手詰まり感を感じるようになっていました。この手詰まり感をどうにかしなければと模索していた時期、2023年に、IDAJさんが主催された「つなぐ。つたえる。MBD・MBSEソリューションセミナー」に参加する機会がありました。“MBD”は自動車業界では盛り上がっているなということは知っていたので、“MBD”はどういうものかも自分なりに調べていました。何か引っかかるものを感じていたんだと思います。
セミナーのどの講演も勉強になりましたし、ヒントになることの多い内容でした。特にトヨタ自動車様は“MBDは仲間づくりに通じるんだ”と、わかりやすく表現されたんですが、それには大いに共感するものがありました。その後、IDAJさんとたまたま打ち合わせをし、MBDに関する話を聞くうちに、MBD導入に対するモチベーションが高まりました。

“今のプロセスを壊すくらいの気持ち”でスタートしたプロセス改革

部門間連携、“仲間づくり” という表現は、回路設計においてメカ設計との調整が必要だと考えていらっしゃったため、実践にあたってのイメージがしやすい表現だったということですね。
そうですね。当事業部はコミュニケーションという観点ではとれているほうだとは思っていました。後になってIDAJさんに当部の設計プロセスを評価してもらったのですが、その時も特に悪いというわけではありませんでした。つまり性能や品質を上げるまたは下げるという観点では、プロセスに大きな不安はなく、設計リードタイムを短縮するための打開策がわかっていなかったというわけです。
当時の上司には、“効率化や改善だけをやっていては、設計リードタイムは短縮できないと思う。今のプロセスを壊すくらいの気持ちで改革に取り組むべきではないか?”という提案をさせてもらいました。それには上司をはじめ事業部長クラスにも賛同が得られました。一方で、当部における問題意識を上司や事業部長と共有できていたと言えるかもしれません。
改善より改革が必要だということを、広く、関係するセクションに理解していただくには、やはりシミュレーションへの理解が欠かせません。しかし、シミュレーションの経験が少ない課長や部長に対して有用性を理解していただくには、シミュレーションで何ができるのか、どのような結果が得られるのかという説明から始まり、シミュレーションとプロセスをどうリンクさせてプロセスを考え直すのかというところにつなげた説得が必要でした。こういった地道な動きの結果、シミュレーションを積極的に適用して設計をしようという機運を少しずつ醸成し、第一段階をクリアすることはできました。ただやはりどうしても、プロセス改革までは踏み込めずにいました。そこで、“MBD”を導入するのがいいんじゃないかというふうに考えるようになりました。
今は、プロジェクトの全体を統括する立場にありますが、私も入社してから、熱流体解析や電磁界解析なども担当するエンジニアでキャリアをスタートしています。ただ当時は、計算機や各解析ツールの性能なども今に比べると非常に低く、設計現場で活用するには足りなかった。しかしいずれは、CAEを活用することになると思ってはいました。そして今は、計算機も解析ツールも大幅に進化し、AIが登場しました。提案を聞いた時には、まさにその時が来たんだと感じました。
エレ・メカ協調設計コンサルティングのご提案にあたって、“MBDとは?”という話をお聞きいただいたことも含めると、設計者様だけでなくマネジメントの皆様を含む、20名近くの関係者の方々に今回のプロジェクトに関わっていただくことができました。ここまで関係者を巻き込むには、相当のご苦労があったのではないかと拝察しますが、いかがでしょうか。
コミュニケーションが活発だったということもありますが、日本で初めて液晶プロジェクターを開発しましたし、そのほかの製品も、結構ユニークなものを作ってきました。そういったチャレンジングな風土がありますので、何か新しい情報がありますよと伝えると、初回は割と多くのメンバーが積極的に参加してくれます。でも、いざプロセス改革となるとプロジェクトそのものの足が長く、定例会を設置し、課題を一つ一つつぶしながら、調整しながら推進していくのはやはり簡単なことではありません。これは、もしかしたらどのメーカーさんでも同じかもしれませんね。
長期的なプロジェクトに取り組むには、プロジェクトメンバーのモチベーションがなければ続きません。個人的にモチベーションは、与えられるものではなく、自分の中から湧き上がってくるものだと思っています。したがって、このプロジェクトを本当に成功させたいと考えてくれているメンバーをコアメンバーとしていただけるように、各セクションの管理職には選出にあたっての配慮もお願いしました。
最終的には、管理職層の理解と協力を得たトップダウン、そして現場からの要求に基づいたボトムアップの両方を組み込むことができた成功例ではないかと自負しています。ここで大事なのは、初めからプロジェクター開発にかかわる設計全体のプロセス改革を視野に入れて活動を始めたところです。プロジェクター設計では、電源、制御回路、光源、光学エンジン、パネル設計、ソフトウェアの部門間のすり合わせが必要になります。MBD導入で最大のメリットは、部門間で整合性をとらなければならない設計業務に、最大の恩恵を受けることができるという点です。やはり、プロジェクトメンバー全員がプロセス改革後のゴールを理解できていることが重要なんだと実感しています。
図1 プロジェクトにおけるゴールの共有

スモールスタートから、設計プロセス改革への波を作る

続いては、プロジェクト概要についてご紹介いただけますか。
ファーストケースとして、電源ユニットのクーリング設計プロセスをターゲットとすることにしました。プロジェクターは、高解像度化や高輝度化による消費電力の増加に加え、市場からの小型化要求にも応えていかなければなりません。つまり「より高性能に、より小さく」という相反する要求を満たす必要があります。この課題を解決する鍵の一つがクーリング設計です。また、電源クーリングは電源回路設計と筐体設計を担うメカ設計の両部門にまたがる課題でもあるため、電源設計における開発プロセスのうち、メカクーリング設計プロセスを見直すことにしました。また、熱解析の重要ファクタである発熱量データの精度と熱解析そのものの精度にも課題がありましたので、一連の活動の中で改善に取り組むことにしました。そして何より、当部がMBDを理解し、設計プロセス改革への波を作ることを最大の目的としていました。
まずは、IDAJさんに現状把握のためにプロセスを細かく確認してもらいました。設計上流では、エレ・メカ間で情報を共有し設計を作りこむプロセスになっており、その流れに大きな問題はないものの、共有する情報の根拠や各ユニットの設計目標が不明確で、また設計を作りこむ手法では正しくシミュレーションが活用できていないなど、プロセスを運用するための手法に起因する問題がいくつか見つかりました。これらを踏まえると、シミュレーションモデルを適切に活用して開発を効率化することは、モデルベース開発プロセスと合致しており有効だということがわかりました。
問題点は大別して、冷却能力のオーバースペック・アンダースペック化、属人性に起因する設計品質のばらつき、各ユニット間のすり合わせ工数の増加、温度評価工数の増加の4つに絞りました。
図2 現状プロセスの整理と問題点の抽出
このプロジェクトの初期には、「本当に精度がアップするのか?」「うまくいくのか?」というように、従来設計方法にこだわる方、プロジェクトそのものに不安がある方など、マイナスの雰囲気を感じる機会が多くありました。マイナスな意見を聞いたときには、「こうなったらいいよね」というゴールを、地道にとことん共有しました。IDAJさんから提案された計画や内容を共有するだけでなく、一人一人が理解し、納得して取り組めるようになることが最大のハードルだったように思います。
まさしく“仲間づくり”が必要だったわけですね。続いては、スモールスタートの目標とされていた電源ユニットの設計効率化に向けたお取り組みについてご説明をお願いします。
IDAJさんの熱設計技術者の方にも加わっていただいて、ステップ1では電源ユニットにおける発熱量予測の精度向上を目的として、回路シミュレーションを活用した検討、過去設計情報のデータ蓄積等の検討、過去設計情報における補完方法のルール化に取り組みました。ステップ2では、製品全体の内部流れを含んだ、電源ユニット周りの3次元シミュレーションの精度向上に取り組みました。ここでは、解析値と実測値における乖離要因の分析、分析結果から仮説を立案すること、乖離要因の仮説検証、簡易モデル・詳細モデルにおける解析モデリング方法の標準化とマニュアル化を実行しました。ステップ3では、システムモデルで使用する、目標値・設計因子を定義するために、電源ユニットでの温度や騒音などの目標値と、目標値に関係する設計因子を定義しました。ステップ4では、システムモデルを構築するために、装置全体の内部流れを計算する1次元CAEモデルの構築、ダクト形状による圧力損失を計算する簡易3次元シミュレーションモデルの構築、1次元・3次元を併用したシステムモデルで、ダクト形状寸法も反映させながら短時間で計算できる手法を構築しました。特にステップ2から4では、電源ユニット以外での活用を念頭に、製品全体へ拡張・流用可能な技術の構築を目指しました。
ここからは、従来の開発プロセスを改革するきっかけになった、ステップ2で実施した3次元シミュレーションの精度向上について少し詳しくご紹介します。
まずは、現状の3次元解析モデルの形状再現度や入力値の妥当性の確認と、実測値の信頼性の検証を並行して進めました。その後、これらの分析結果から乖離要因として考えられる仮説を抽出し、その影響度や修正の難易度を考慮しながら、検証の優先順位を決定しました。
図3 乖離因子それぞれの影響度と修正難易度
検証にあたっては、抽出した複数の乖離要因への修正を一度に実行すると、各要因が乖離にどの程度影響しているのかがわからなくなってしまいますので、一見遠回りに思える方法ではありますが、仮説要因を一つずつ修正して効果を確認しました。このような手順で分析を進めることで、次機種以降のモデルで新たな乖離が発生した場合でも、検証の優先順位を容易に設定できるようになります。
図4 乖離要因の修正とその効果の確認
温度の実測値の検証では、熱電対による熱引きの影響によって、測定値は実際の温度より低くなることを踏まえ、どの程度まで低く測定されるのかを評価しました。実測検証にあたっては、IDAJ技術顧問の国峯先生にも当社へお越しいただき、当社の測定担当者と一緒に実機を確認しながら、より適切な実測方法についてディスカッションしていただきました。これによっても測定技術に関する知見が深まり、非常に有意義な時間になりました。
こういった検証を約半年にわたってコツコツと継続した結果、実測値と解析値の乖離を約7%にまで縮小することができました。そして最終的には、今回の取り組みで得た知見を基に、担当者が変わっても一定のモデル品質を確保できるよう、モデリング方法をマニュアル化しました。このマニュアルは、単なるCAEツールの操作手順をまとめたものではなく、IDAJさんのモデリングノウハウを整理・明文化した内容となっています。そのため、次機種以降において構造が異なる製品をモデリングする場合でも、マニュアルを参考にしながら自ら考えてモデルを構築することができます。このような標準化に向けた活動も、本プロジェクトにおける成果の一つであったと考えています。
図5 解析値と実測値の乖離低減結果
3次元シミュレーションの精度向上では、熱流体解析手順書という形式で、御社でも取り組んでいただけるベースを作成させていただいたつもりでしたが、やはり別モデルに適用する際には解析で苦労されたとお聞きしています。
はい、モデルに対する考え方ひとつとっても、IDAJさんと同じようにはいきませんでした。コンサルティングの期間中に、エクセルを使って、熱伝導率が簡易的に計算できるシートを作成していただきましたね。実はあれを改良して今も使っているのですが、その改良作業そのものがとても良い勉強になっています。一つのパラメータが他にどういった影響があるのかということを、瞬時にわかりやすく把握できるんです。熱解析の教育や人材育成という面でも活用させてもらっています。
図6 新規電源ユニット開発設計のプロセス変更(メカ-電源協調設計)※一部抜粋

解析精度向上だけで終わらせない、設計開発現場の行動変容に見るプロセス改革の本質

今回のプロジェクトをご経験されて、効果や変化を感じられることはございますか。
一番大きな変化は、行動変容かもしれません。プロセスが変われば行動が変わり、その変化した行動によって、またプロセスが変わるという好循環が回り始めました。そして、それがセクションごとの変化ではなく、電源ユニット設計の中で、関係する複数のセクションが協力して変わっていこうとしています。プロジェクトの開始当初は私を含めて数人の動きだったのが、複数のセクションでの動きとしてスパイラルアップしていく様を、今は感慨深く見ています。
シミュレーションや実測などの精度向上によって、過去の製品でなく、これから開発する新製品の設計段階においても、シミュレーションを適用して検証できるようになりました。これは各セクションのエンジニアが、プロセス全体を理解しているので、早い段階でなぜ評価できないのか?それは、モデルがないからだ。では、この時点でモデルを準備するにはどうしたらよいか?という調整が、そこかしこで行われています。こういったプロセス改革に”自分ごと“として取り組むというマインドもしっかりと醸成されています。これは、IDAJさんの影響が非常に大きかったですね。計算精度向上への取り組みの中で、“適切な3次元モデルがあれば、ここまで行ける”という結果を明示していただいた、その経験があればこそだと思います。また3次元解析の精度が上がり、信頼性が向上したことで、冷却ダクト設計が、現物がまだ無い、基板や部品のレイアウト設計の最中に進めることができるようになりました。
さらには現場レベルだけでなく、新VP-DPX(注:Digital Process Transformation)として組織でプロセス改革を継続することになりました。

プロジェクターには、小さな筐体の中に熱をはじめとする様々な要素が、ギュッと詰まっています。設計にあたっては、各要素のすり合わせが本当に大切で、このすり合わせの成功が商品力に直結するんだと思っています。こういった状況では、モデルを共通言語にするMBDが開発技術という点でも重要だと感じています。MBDはコミュニケーションだとする見方がありますが、まさにそうだと思います。各要素において最適化した結果を持ち合うのと、共通認識をもって、モデルを共有しながらすり合わせを含めて全体で調整するのとは、結果が全く違うことに驚きます。
図7 製品全体(各要素)へのMBD拡張

わかりやすく有効性を示す一方で、それを糧にプロセス改革を推進するアプローチが奏功

詳細のご説明、どうもありがとうございました。IDAJからの提案採用の決め手などありましたら、教えていただけますでしょうか。
やはり長年のシミュレーション運用経験に裏打ちされたコンサルティング力や知識に期待していました。特に熱シミュレーションの精度アップがどこまでできるのかという点では期待しかありませんでした。
また、シミュレーションを設計ツールとして精度向上していくのは当然だとしても、私が期待した“設計プロセスの改革”までに踏み込んだコンサルティングはなかなかないと思っています。設計プロセス改革まで踏み込むには、手間と時間がかかります。あえてそれをゴールとしてプロジェクトを推進していただけたのは、当社にとって大きなインパクトがありました。
そもそも、なぜ“MBDなのか?”という根本的な思考の在り方を含めて、コンサルティングしていただいたことには感謝しています。おそらく、この根本的なところの理解が足りなければ、単なる効率化や標準化で終わってしまっていたのではないかと思います。
私は、熱意と、スモールスタートでの提案だったと思います。MBD導入後の展開を、関係者全員が自分ごととしてすぐに納得し、日々の活動に落とし込んで推進するのは難しいのではないかと思います。理解を得るには、意義を感じて、一緒に推進してくれる支持者を少しずつ増やしていくことが必要です。このフェーズでは当社のコアメンバーと、伴走してくれたIDAJさんの熱意が不可欠でした。多くの方が「何とかしないといけない」という思いを持ってはいますので、徐々に理解が得られれば、ある時点で、一気に広がります。
一方で、少しでも早く投資回収は始めたいので、スピード感も求められます。その観点から、小さくとも成功を示すことができたのは投資の早期回収とあわせて、MBD展開を加速させることにつながりました。
プロセス改革前を振り返ると、要素ごとではプロセス改善による効率化には取り組んできたのですが、それが複数の要素を飛び越えたプロセス改善への動きにはなっていなかったんですね。部門間での課題が解決できれば、おそらく大きな成果が得られるだろうとは考えていましたので、先ほどご紹介したように、新VP-DPXとして関わりの深い要素間の連携ワーキンググループを複数立ち上げました。そこでは自然と、MBDやモデル、コリレーションといった言葉を使って会話するようになっています。
省略

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