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Solutionソリューション

エネルギー関連産業

洋上風力・太陽光・地熱

カーボンニュートラルの実現のためのクリーンな1次エネルギーと聞いてまず思い出すのが、太陽光発電や風力発電ではないでしょうか。国土の周りを海で囲まれた日本は、特に洋上風力発電のポテンシャルが高く、政府は2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万kW~4,500万kWもの発電を導入目標として明示しており、注目度の高さがうかがえます。
洋上風力発電設備には、海底にタワー(支柱)を打ち込む「着床式」と、タワー自体の姿勢を浮力によって維持する「浮体式」の2つの方式があり、日本周辺では海底の傾斜が急であることを理由に着床式よりも浮体式が適しています。ただし、洋上風力発電設備は一般的な風力発電の設備よりも技術的なハードルが高く、また設備自体が非常に大規模であることからCAEを利用した事前検証が必須であるといえます。
ここでは洋上風力発電設備の設計や用地選定、システム全体の評価にフォーカスし、各テーマに対するCAEの活用方法についてご紹介します。

洋上風力発電

設備設計(構造・空力騒音・機構)

風の力を効率よく回転の力に変換するためには、ブレード形状が非常に重要です。近年、ブレードは大型化していますので、数百メートルのサイズのブレードともなると風の力によるブレードの変形を考慮しなければなりません。そこで、流体解析と構造解析を双方向に連携する流体-構造連成解析を用いることで、風の力によるブレードの変形とブレード周りの風の流れを同時に計算し、精度の高い事前検証を行います。また、ブレードの材質は複合材部品であることが多く、コストにも十分に考慮しなければなりません。

コストと軽量化のバランスが、複合材のメリットを生かすポイントとなりますので、タービンブレードを設計時には、SIIMULIA Abaqus Unified FEAなどの構造解析ツールを使用した検討が有効です。

複合材ブレードの設計と解析(SIMULIA Abaqus Unified FEA)

洋上風力タワーには、強風や荒波、氷などの様々な自然現象から被る破損、風力タワーの基礎には、鉄筋に極荷重がかかり、コンクリートにひび割れが起きることがあります。この倒壊やひび割れなどの挙動を構造解析で予測します。

風力タワーや基礎の座屈、ひび割れの予測(SIIMULIA Abaqus Unified FEA)

より効率的な発電のためには、ブレードの回転を変換するためのシャフトやベアリング、増速ギアも重要な部品です。数十年単位で使用する発電設備は、効率だけでなく繰り返し荷重による疲労も考慮しなければなりませんが、長時間の実験が必要な疲労試験をCAEで代替することにより検証時間を大幅に削減することができます。

転がり軸受けのオイル潤滑解析(CONVERGE)

設備設計(電力変換・送電)

風の力によって得られた運動エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換するために、発電機(モーター)の効率を上げなければなりません。コアの材料やロータ、ステータの形状を机上で検証することで、最適な材料と形状の組合せを迅速に求めることができます。

モーターの複合領域最適化(modeFRONTIER、Femtet)

発電した電力を変換するための変圧器やコンバータ、インバータの設計では、コンバータやインバータが半導体素子によるスイッチングを伴うため、スイッチングノイズを起因とした誤作動が起きないように設計(EMC設計)する必要があります。回路上の伝導ノイズの評価や基板からの放射ノイズ等、様々なノイズに対してシミュレーションを活用することによってEMCの検証を行うことが可能です。

変圧器ホットスポット解析(Ansys Fluent)

Ansys Q3D Extracorと回路モデル、LISN回路を活用することで、バスバーや筐体等の寄生成分によって予期しないノイズを事前に予測し、伝導エミッションを事前に評価・検証することができます。

インバータ回路伝導ノイズ解析(Ansys Q3D Extractor)

現在は交流による送電が主ですが、海上で発電した電力を陸上に輸送する際は海底ケーブルによる長距離輸送となるため、交流による損失が増加するため、直流送電が主な送電方法となります。直流送電なら海底での損失は起きませんが、電流の零点が存在しないため大電流の遮断が難しく、非常に危険な状況が発生することになります。CAEを活用すれば、遮断時のアークによる温度分布や周辺に発生する磁場等を可視化することができ、安全に検証することができます。

用地選定

洋上風力発電設備は発電量を増やすために、ある地域に複数の発電設備を設置することが多く、その際に問題となるのが設備の配置です。
配置によってはブレードに対して適した風が当たらず、発電効率の低下が懸念されます。もちろん発電設備の配置を後から変更することはほとんど不可能と言って良いため、CAEを用いた事前検証は欠かせません。

システム全体評価

風力発電設備の各部品への性能目標値を決めるには、発電設備全体のシステムを検討しなければなりません。部品点数が数万点にものぼる風力発電設備では、各部品の性能目標値をサプライヤーが決定することは難しく、設備を設計するメーカーが事前にシステム全体を検証して、性能目標値の割り付けを行います。
風力発電設備では、電気だけでなく構造・機構や流体といった複雑な現象が絡み合っているため、実設計においては、それらの現象を同時かつ高速に検証することが求められます。これには1Dシミュレーションを利用したシステムの検討が有効です。
縮退化やAIといった最新技術によって、モデルの精度を担保しつつ高速な計算が可能な代理モデルを構築することができますので、この代理モデルを用いたリアルタイムでシミュレーションへの取り組みが急務です。この技術をデジタルツインに活用することで、実稼働時に測定したデータから代理モデルによる内部状態の予測を行うことができ、事故や不具合を未然に防ぐことが期待できます。

1Dシミュレーションを用いた風力発電システム解析(Ansys Twin Builder)

風力発電に限らず、太陽光やディーゼル発電などを組み合わせたハイブリッドエネルギーシステムは、遠隔地のオフグリッドユーザーの電力需要を満たすための重要なソリューションです。
このような設備に対して、長期間に最大の節約効果を得るための最適なエネルギーミックスを探索するため、シミュレーションモデルとして実装したMATLABモデルとmodeFRONTIERとを連携させて最適化計算を行った結果が報告されています。この時の最適なソリューションは、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーを最大限活用する方法ではなく、ディーゼル発電を加えた3つの発電方法のエネルギーミックスであることがわかりました。

遠隔地のオフグリッドアプリケーションにおけるハイブリッドシステムの事例研究(modeFRONTIER)

太陽光(次世代再生可能エネルギー)

太陽光発電の最大の特長は、エネルギー源が無尽蔵で、クリーンである点です。石油を燃焼させて電気を起こす火力発電のように、発電時にCO₂(二酸化炭素)や、SOX(硫黄酸化物)、NOX(窒素酸化物)などの大気汚染物質を発生させることがありません。 1kWシステムの年間発電量を1,000kWhとした場合、結晶系シリコン太陽電池によるCO₂削減効果は、年間で399.5kg/kWh。石油の削減量は、年間で227リットルになります 。(出典:太陽光発電協会「表示ガイドライン(2021年度)」(PDF形式)
日本の総発電量における太陽光発電の割合はまだまだ低いと言われていますが(*)、太陽光発電には、設置場所を選ばない、非常用電源として利用できる、企業の社会的貢献に対するアピール効果など、様々なメリットがありますのでその普及が待たれるところです。
(*) 2019年度、日本の発電量に占める再生可能エネルギー比率18%の内37%が太陽光発電)

高い再生可能エネルギーの導入を支える制度の一つFIT・FIP制度(固定価格買取制度)に加えて、オフサイトコーポレートPPA(Power Purchase Agreement)が産業界で注目されており、政府は今後も太陽光発電導入を推進するものと考えられています。
現在、主流の太陽電池パネルは、コストは下がってきたものの、設置場所にはいくつかの制限があります。例えば耐荷重の小さい建築物の屋根や壁面などは、太陽電池パネルの重さに耐えきれないため設置が困難です。そのため、次世代型太陽電池の技術の中で、既存の太陽電池パネルに比べて軽量で柔軟性に優れた「ペロブスカイト太陽電池」が特に注目されており、実用化に向けて、耐久性などの課題を克服するための取り組みが続いています。
太陽光発電は、家庭から発電所まで幅広い用途で活躍する分散型電源として、私たちにとってとても身近でかつ必要不可欠なデバイスになっています。そのためにも、より安価で高性能な、設置場所を限定しない太陽電池パネルの開発が求められます。

これは太陽電池の効率向上のため、 CAEを用いて冷却システムを最適化した事例です。
太陽電池内部の発熱体形状をパラメータとし、作成されたCAD-FEモデルに対してmodeFRONTIERの最適化アルゴリズムを適用し、最適な発熱体形状を効率的に導出しました。modeFRONTIERによる最適化計算の結果、熱が太陽電池全体に均一に分布するようになり、封入プロセスの品質向上、ひいては太陽電池の長期的な信頼性を向上させることができました。


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